文藝綺譚 坪内祐三 扶桑社 2012年4月20日 初版第1刷発行 |
一番目を引いたのが、p245「次版担当の林丈二・林節子夫妻や......」。こんなところで林丈二さんのお名前を目にするとは思いも寄らなかった。何しろ全編が文学一色なのだから。内容は筑摩書房から『明治の文学』全25巻の編集を松田哲夫氏から頼まれた場面。
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全部で12回分の連載内容。最初の回は2007年に西村賢太氏がもらった野間文芸賞授賞式パーティーについて。ほぼ小説になっている。出だしからして面白い。メモを取るための筆記用具としてサインペンを買いに走る場面から始まる。で、いきなり過去の小島信夫著『別れる理由』に描かれた野間文芸賞授賞式パーティーについて話がとぶ。(なにしろ『『別れる理由』が気になって』著者なのだから。)
第2回が三浦和義事件について、坪内氏は「三浦和義事件とは文学的事件でもあったのだ。」という。村上春樹、村上龍、中上健次、島田雅彦らそれぞれの違いを説明しながら1984年の世相について説明してゆく。さらに三浦と同世代だった景山民夫......。
ここからの脱線が坪ちゃんの真骨頂。『文學界』昭和六十年八月号の座談会「戦後文学の『内部』と『外部』」でのやりとりについて。出席者が中野孝次、秋山駿、柄谷行人、中上健次。最後には柄谷「黙れ」、中野「バカ野郎」で終わったという。目に浮かぶ、漫画のよう。
この調子だとこのまま全12回分について書かないと終わらない。残念だけれど、はしょらなければ。何度も出てくるのがニューアカ全盛だった80年代に対する違和感。あれはなんだったのか。それと相撲に対する熱の入れよう。これは坪内氏が好む岡田睦や川崎彰彦につながる。
例の新宿で殴られて入院した顛末についても詳しく書いてある。
文士。
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