お言葉ですが...〈別巻3〉漢字検定のアホらしさ 高島俊男 連合出版 2010年5月20日 第1刷 |
山本夏彦翁の書くものに似ている気がした。今どきのものを知らない人間に、それでも教えてくれている頑固な老人の言葉みたい。何冊も読んでいると同じことの繰り返しが目に付いてくるというところも。
これは山本氏の本でも同じだったのだが、その時代を生きていた人にとっては当たり前すぎてあらためて今さらながら言わずもがなということでも、若輩者にとってはそこがおろそかにできない大切なところなのだ。そうしてことを後世に残してくれる人は他にはなかなかいないのだ。
ただし、この本では細切れに漢字についての断片的な内容ばかりではない。編集者がまとまった内容をいくつか用意してくれている。その代表が①「漢字検定のアホらしさ」であり②「両雄倶には立たず--白川静と藤堂明保の「論争」」や③「「春望」について」であろう。どれも読み出がある。とくに①と②は高島氏の読者にとっては楽しみにしていた有名作品だった。③はちょっと傾向が違う。初出が1970年4月。若き教師時代の氏を想像しながら読み返した。
異色だったのが「若き和辻哲郎の期待と失望」だった。大正五年当時の社会をわかりやすく説明してくれている。若輩者にも親切な文章だ。時代説明もだが、なによりも鴎外の史伝を時代考証というパズルにのめり込んで遊んでいただけだったという説明が新鮮だった。こういう見方は初めて目にした。
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