[NO.1201] 死の蔵書/ハヤカワ文庫

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死の蔵書/ハヤカワ文庫
ジョン・ダニング
宮脇孝雄 訳
早川書房
1996年2月29日 発行
1998年3月10日 34刷
再再読

出版時、このミス(別冊宝島の『このミステリーがすごい1996』)でベスト1をとって話題になった。主人公の警官をはじめ、登場人物のほぼ全員が古書店主やその客といった古本好きで占められているということもあって、本好きなミステリーファンにとっては見逃せない魅力だった。それは今読んでも色あせていなかった。

3度目ともなると、当時からいわれていた可笑しさを感じずにはいられなかった。場所がデンバー! どうして、そんなところなんだ? できればニューヨーク、せめて東部の古い街であってもよかっただろうに。

そして、ここが肝心なところなのだが、歴史の浅いアメリカにあって、古書というとせいぜいが......、ここ数十年がところしか、さかのぼりきれない。そりゃ、白鯨あたりまでいってしまうと、違うけれど。登場人物が仰々しくいうから、いったいどれほどの古書なんだ? と思っていると......。もう、この話はやめよう。

で、さらに可笑しいのが、スティーブン・キングをおちょくっているところ。

p75
彼は、キングとその追随者――ディーン・R・クーンツやクライヴ・パーカーなど、いわゆる小君主(キング)たちの本を専門に扱っている。超弩級の船が一隻いれば、そのうしろには十数隻の小舟が従う。筋立てはいずれも馬鹿ばかしいかぎりだが、この現代社会でもっとも重要な場所、キャッシュ・レジスターの前では、絶大な人気がある。ジャネット・デイリーが一年中ベストセラー・リストに顔を出しているような社会は、どこかに重大な欠陥があるのだろう。
(途中略)
近ごろ気に入らないのは(通俗本の話になると、メル・ブルックスの十八番(おはこ)である二千歳の男のような口ぶりになるのはどうしてだろう)、商才と文才とを取り違えている者が多いことだ。とにかく、最後まで読んで、いったいこれにはどんな意味があるのか、何が書いてあったのか、と自問してみればいい。そうすれば、たいがいは中身が何もなかったことに思い当たるだろう。何か意味のあることを書くという義務から解放された作者には、怖いものは何もない。

特に最後のフレーズは可笑しくて笑ってしまった。「何か意味のあることを書くという義務から解放された作者には、怖いものは何もない。」蓋し名言だ。