新・日本文壇史 第5巻/昭和モダンと転向 川西政明 岩波書店 2011年3月29日 第1刷発行 |
他の巻とくらべ、「昭和モダンと転向」というサブタイトルがいい。「昭和モダン」も「転向」も、ともに興味深いテーマ。
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伊藤整による厖大なる明治期の「文壇史」があるが、巻末広告に本書はその志を継いでいるのだとある。「第二十五章の伊藤整」は、その女性遍歴を中心に書かれている。果たして伊藤整がこれを読んで、どう思うであろうか。
高見順の出生にまつわるエピソードと荷風が無視した話、本書を読むと補強される。
平野謙とその八校時代からの校友2名について、これまでも知ってはいたが、共産党関連で書かれたものは初めて。素人下宿の隣室に宮本顕治がいたという出会いに偶然とはいえ、運命めいたものを感じる。
原泉と中野重治は、これまで気になっていたが、わからなかったことが一気に納得。
川端康成の章と井伏鱒二の章は、まるでとってつけたように短い。何か訳でもあったのやら。
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目次
第二十五章 伊藤整の性と愛
父伊藤昌整の肖像/奔放な少女根上シゲルとの「愛」のかたち/永遠の少女小川貞子との出会い/父の死/梶井基次郎ら『青空』の同人との出会い/春山行夫、西脇順三郎ら新しい詩人との遭遇/貞子との愛の確認/高山タミと整の仮面/川端康成に認められる/酒場の女ヨネとの十年愛/左川ちかとの秘めた恋/小川貞子との結婚/ちかとタミの死/昭和の表現者の誕生/ちかとタミへの罪と罰第二十六章 最後の文士高見順の修羅の人生
高見順の故郷三国/私生児の運命/順の最初の女/石田愛子との結婚/検挙と愛欲地獄/妖婦伝説/転向とコキュで狂い廻る/娘由紀子の死/上海での密会/もったいないねえ第二十七草 平野謙が経験したリンチ共産党事件
平野謙と本多秋五の出発/藤枝静男の「悲劇」の原型/「私」を離れて、しかも強く即く/平野と小畑達夫/平野の初恋の人根本松枝/平野の執念/査問者側の記録/埴谷雄高が知る大泉兼蔵/熊沢光子の孤立と憂愁/生き延びた大泉第二十八章 中野重治と原泉の転向時代
原泉の少女時代/女優原泉子誕生/右両人このたび結婚いたさせ候/夫から妻宛の獄中書簡/西田信奉の死/再度の獄中通信/父と息子の村の家の対話/芥川龍之介、志賀直哉に学ぶ/日常生活者の視点/獄外十二年の重み第二十九章 「雪国」の駒子
「浅草紅団」の踊子梅園龍子/駒子の実像/その後の駒子第三十章 井伏鱒二の恋文
青木南八の死と「鯉」/片上伸教授の男色事件/「早稲田大学休学・中退の真相」/竹内仁の波紋/柳井の女学生谷サトとの恋/運命を打破する道参考文献
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