学歴貴族の栄光と挫折/講談社学術文庫 竹内洋 講談社 2011年2月9日 第1刷発行 2011年3月1日 第2刷発行 |
予期した以上に、なかなか面白し。
巻末に「本書の原本は、一九九九年四月に中央公論新社より刊行されました。」とあり、また、「学術文庫版へのあとがき」に、詳しい出版の経緯がある。中央公論社から全十六巻の日本の近代シリーズの中の一冊として、まとめられたとのこと。
なるほど、学術書である。本文中に収められたグラフや表なども多い。なにより巻末にある参考文献の数が279点(数え間違いもあるかもしれない)。恐ろしいことにそれでも、「特に参考にしたものに限定し、文中や図表で出所を明記したものは省いた」とある。また、「関係年表」は25ページにわたっている。
それなのに通読しやすく、ページをめくる手を休めることなく読了した。次から次へと興味深い内容が続き、引き込まれる。
イギリスでは、単にオックスフォードやケンブリッジを卒業しただけでは駄目で、イートンやハロウ、クリフトンなどのパブリックスクールを経てからの卒業生にこそ、価値があるという。それを日本で当てはめると、旧制高校、それも一高経由東大卒こそが、本当の学歴貴族なのだという。なるほどと納得せざるを得ない。そのことをこれでもか、と具体例を交えて詳述している。
出だしから具体例に永井荷風が入試で失敗したことで、ドロップアウトしてゆくことが挙げられている。なるほど。官吏の息子だけに、それは切実な問題だったのだろう。すると、商人の息子だったとはいえ上昇志向の強かった植草甚一が入試でしくじったことから私立大学へ入学したものの、やはりドロップアウトしていったことも、なんとなく腑に落ちる。しょせん商業学校で優秀であっても、旧制中学とは違うと思わざるを得なかったのかもしれない。
表紙絵のお宮と貫一も面白い。『金色夜叉』の著者である尾崎紅葉が、第一高等中学校経由帝大入学なのだ。(退学したが。)いやはや。
関川夏央の解説も面白し。
目次
プロローグ 学歴貴族になりそこねた永井荷風
永井壮吉
荷風と龍之介
庶民・中堅・エリート
第一章 旧制高等学校の誕生
官立高等中学校
薩長藩閥のサバイバル戦略
東京大学と帝国大学
差異化戦略第二章 受験と時代と三五校の群像
「藩閥之将来」
高校入試
高校増設
帝大入試
スクール・カラー第三章 誰が学歴貴族になったか
栗野事件
パブリック・スクールと旧制高校
学習院進学事情
教育機会の虚像と実像
社会移動か社会的再生産か第四章 学歴貴族のせめぎあい
明治三十年代の第一高等学校
魚住あやうし
一高魂は日本魂
攻防
新渡戸校長と弁論部第五章 教養の輝きと憂鬱
教養書ブーム
芳香としての教養
差異化=卓越化としての教養
苦悩する教養第六章 解体と終焉
教養の衰微と復活
丸山眞男という範型
蜜月から反乱へ
大衆的サラリーマン
テロル
終焉エピローグ 延命された大学と教養主義
学術文庫版へのあとがき
参考文献
関係年表
解説 昭和四十二年の「違和感」 関川夏央
索引
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