[NO.1159] 「絵のある」岩波文庫への招待

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「絵のある」岩波文庫への招待
坂崎重盛
芸術新聞社
2011年2月25日 初版第1刷発行

出版社サイトに紹介あり。リンクこちら
良書。坂崎氏らしい着眼点。「絵のある」岩波文庫という視点から岩波文庫を紹介している。

まえがきから引用

p2
本はただ、テキストを読むだけのものではないでしょう。ときに元本にあった挿画や次版が再録され、読者に供される。その恩恵をこうむって、手にした「絵のある」岩波文庫、約百二十タイトル、冊数にして約百九十冊。
「絵のある」岩波文庫の八、九割には達したでしょうか。

著者もいっているとおり、他の文庫ではなく、古典の王道をゆく岩波文庫に「絵のある」という意外性が面白し。

ほかに面白かったのが、途中でいきなりウィリアム・ブレイクに飛ぶところ。

p176
岩波文庫に収銀の、木村荘八描く『濹東綺譚』と『新編東京繁昌記』と続けて、今回は荘八と緑の深い岸田劉生(りゅうせい)で行く、と予告したのだが気が変わった。
岩波文庫の『岸田劉生随筆集』や同じく『摘録劉生日記』他、劉生に関わる本をあれこれ読んでいるうちに、自分の気分にフェイントをかけたくなったのだ。
劉生の文や絵に触れていて、ふとウィリアム・ブレイクを思い出したのである。
劉生→白樺派→柳宗悦(やなぎむねよし)→ブレイクという連想があったのかもしれない(柳宗悦はブレイクを日本に紹介した白樺派同人)。とにかくこのへんで、ちょっと海外に出てみたくなった。

p182
さて、いよいよ岸田劉生だ。
荷風『濹東奇譚』の挿画で、木村荘八→そして荘八自身による画文『新編東京繁昌記』→荘八つながりで岸田劉生と続く予定だったのが、我ながらあまりにもベタな流れと感じたのか、あるいは劉生関連本を読み続けているうちに、その"濃さ″ にモタれたのか、劉生ではなく、劉生同様信仰の世界に隣り合い、また異教的ヴィジョンを見る人――ウィリアム・ブレイクの画とテキストの世界に一時逃難した。
そして、今回、蕩児の帰還(?)、再び劉生ワールドに戻ってきました。

このあたりの融通無碍なる脱線が著者の魅力なり。

※   ※   ※

目次
まえがき Ⅰ
◎幕開け
意外?岩波文庫は多彩で充実した貴重な挿し絵の展示館 15

ChaPter 1

◎池内紀編訳『ホフマン短篇集』『ウィーン世紀末文学選』
この四冊の「絵のある」岩波文庫の共通点は? 22

◎シャミッソー(池内紀訳)『影をなくした男』 池内紀編訳『カフカ寓話集』
「目玉」と「望遠鏡」の芋づる式連続に呆然! 28

◎谷崎潤一郎『蓼喰う虫』 芳賀徹編『小出楢重随筆集』
大谷崎とがっぷり四ツ 小出楢重描く 〝大切な雰囲気″  34

◎谷崎潤一郎『幼少時代』
谷崎の執拗な女体礼賛を淡々と描いた清方の筆  40

◎山田肇編『鏑木清方随筆集』『随筆集明治の東京』
明治東京への深い情愛 清方の随筆は日本人への遺産

◎ルナール(辻昶訳)『博物誌』
ルナールの『博物誌』の挿画をあの三人の画家が競作  52

◎ロンゴス(松平千秋訳)『ダフニスとクロエー』
『ダフニスとクロエー』の挿画家・ボナールにどっぷり漬かる 58

◎寺田寅彦『柿の種』
物理学者にして俳文的随筆の名手寺田寅彦の挿画を楽しむ 64

◎木下杢太郎(前川誠郎編)『新編百花譜百選』
メランコリーな〃文理″両道の巨人木下杢太郎の素描の技傭 70

◎エドワード・リア(柳瀬尚紀訳)『完訳ナンセンスの絵本』
リアの詩画によるナンセンスイギリスは妙チキリン  76。

◎ルナアル(岸田国士訳)『にんじん』 ウェブスター(遠藤寿子訳)『あしながおじさん』
女子は『あしなが おじさん』 男子は『にんじん』? 82

ChaPter Ⅱ

◎鈴木牧之編撰(京山人百樹刪定 岡田武松校訂)『北越雪譜』
春の前ぶれの雪の日々 江戸の奇書『北越雪譜』を読む 90

◎堀内敬三 井上武士編『日本唱歌集』 与田準一編『日本童謡集』
「どこかで春が生まれてる」季節に 『日本唱歌集』『日本童謡集』

◎勝尾金弥編『鈴木三重苦童話集』
純文学ならぬ「純童話」の創造者『赤い鳥』の鈴木三重吉 102

◎桑原三郎 千葉俊二編『日本児童文学名作集』(上・下)
明治・大正・昭和の児童文学を通観できる 〝お得な″名作集 108

◎千葉俊二編『新美南吉童話集』
ようこそ新美南吉の〝埒外″の世界へ、挿画は谷中安規と棟方志功  114

◎モーパッサン(水野亮訳)『脂肪の塊』
娼館をきりもりするマダム「脂肪の塊」に心寄せて 200

◎モーパッサン(河盛好蔵訳)『メゾンテリエ(他三篇)』
『メゾンテリエ』も『脂肪の塊』同様〝朝日のあたる家″の物語 126

◎ツルゲーネフ(神西活 池田健太郎訳)『散文詩』
ツルゲーネフの晩年の断章『散文詩』を飾るナイーブな挿画 甲132

ChaPter Ⅲ

◎正岡子規『仰臥漫録』(その①)
余命一年という死の床にあって迫真の俳文俳画日記に感動! I40

◎正岡子規『仰臥漫録』(その②)
あれだけ「自然界を見たがった」子規ならではの写生画 146

◎永井荷風(磯田光一編)『摘録断腸亭日東』(上・下)
『断腸亭日東』のスケッチに「好奇心の人荷風」を見た 152

◎永井荷風『■東奇譚』
現代挿画史に残る不朽の名作 荘八描く『■東奇譚』 158

◎木村荘八(尾崎秀樹編)『新編東京繁昌記』(その①)
荘八の東京愛がひしひしと伝わる必携の傑作画文集  164

◎木村荘八(尾崎秀樹編)『新編東京繁昌記』(その②)
手元にダブリ本があると思った『新編東京繁昌記』だが...... 170

◎松島正一編『対訳ブレイク詩集イギリス詩人選(4)』
不思議な緑で再度「伝達」されたブレイクの詩と絵の世界 176

◎酒井忠康編『岸田劉生随筆集』
誇大妄想狂か美の使徒か岸田劉生の周辺逍遙 182

◎岸田劉生(酒井忠康編)『摘録劉生日記』(その①)
日比谷公園花壇を写生する荘八その後ろに立った劉生 188

◎岸田劉生(酒井忠康編)『摘録劉生日記』(その②)
劉生晩年、余技(?)の傑作「新古細旬銀座通」 194

◎清水勲編『岡本一平漫画漫文集』
漱石も脱帽した画・文の冴え 岡本一平の世界 200

ChaPter Ⅳ

◎ジュール・ヴェルヌ(朝比奈弘治訳)『地底旅行』
19世紀後半刊『地底旅行』画文の底力に呆然 208

◎ジュール・ヴェルヌ(鈴木啓二訳)『八十日間世界一周』
「科学の世紀」の幕開けの冒険講『八十日間世界一周』  214

◎ワイルド(福田恆存訳)『サロメ』
ビアズレー描く「絵のある」岩波文庫、屈指の一冊 220

◎ビュルガー編(新井培土訳)『ほらふき男爵の冒険』
ドレーによるなんたる描写力なんたるナンセンス! 226

◎ユーゴー(豊島与志雄訳)『レ・ミゼラブル』
『ああ無情』とも訳された、この物語は一種の超人伝説 234

◎ウィンパー(浦松佐美太郎訳)『アルプス登撃記』(上・下)
ただの若き画家が前人未踏の「魔の山」を制覇してしまう偉業と惨事 242

◎メルヴィル(阿部知二訳)『白鯨』
なんなんだ、この〝悪態小説″と〝鯨の宇宙誌的″偉大なる合体文芸は!

◎マーク・トウェイン(西田実訳)『バックルベリー・フィンの冒険』
これぞ心うつハードボイルドの萌芽 ハック少年に脱帽 258

◎ディケンズ(藤岡啓介訳)『ポズのスケッチ』(上・下)
一人の大作家が誕生する瞬間と、その作品  266

◎ハイネ(井上正蔵訳)『歌の本』(上・下)
これは意外!? ハイネの恋愛詩には死と墓のイメージが満ち満ちていた  274

ChaPter V

◎尾崎紅葉『多情多恨』
トンデモ主人公による喜劇? 泣き男の『多情多恨』 280

◎坪内造遥『当世書生気質』
造遥の「近代小説宣言」の実作だというのだが、はたして......  286

◎清水勲編『ワーグマン日本素描集』
明治の画壇に多大な影響を与えたポンチ絵師・ワーグマン 292

◎清水勲編『ビゴー日本素描集』(正・続)
親日家ビゴーその諷刺精神ゆえに日本滞在を困難にする 298

◎松村昌家編『『パンチ』素描集』
〝パンチ″の効いた諷刺雑誌、ご本家イギリス『パンチ』誌 304

◎サッカレ(平井呈一訳)『床屋コックスの日記 馬丁粋語錦』
傑作小説も書けば挿画も描く、対する翻訳がまたお見事! 310

◎清水勲編『近代日本漫画百選』
絶妙の諷刺漫画でたどる近代日本世相史 316

◎山口静一及川茂編『河鍋暁斎戯画集』 ジョサイア・コンドル(山口静一訳)『河鍋暁斎』
近年、脚光を浴びる奇才・暁斎の二冊の岩波文庫 322

◎志賀重昂(近藤信行校訂)『日本風景論』
明治中葉にデビューした画期的日本列島地形型録 328

◎赤松宗旦(柳田国男校訂)『利根川図志』
読んで楽しい、見て驚きの文学的地誌『利根川図志』  334

◎長谷川時雨『旧聞日本橋』
これぞ明治生まれ下町女の気風長谷川時雨にぞっこん  340

◎アンデルセン(大畑末吉訳)『絵のない絵本』
タイトルに嬉しい裏切りあり本当は「絵のある」『絵のない絵本』  346

◎[あとがき]の前に......
目の前には積み残された「絵のある」岩波文庫が 352

あとがき  356

人名索引  363(ⅳ)  書名索引  366(i)

※本書は「彷書月刊」(二〇〇七年三月~二〇一〇年一〇月号)《新刊・旧刊「絵のある」岩波文庫を楽しむ》芸術新聞社(Web版)の連載に加筆・構成したものです。

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p40
ちなみに、年方(としかた)(水野年方)は、鏑木清方の師である。神田明神の社殿裏には年方の灯籠型の美しい碑が立つ(必見です)。

「水野年方顕彰碑」という名前で検索すると、多数ヒットします。リンク、こちら 神田明神には何度も行きますが、これはいまだ見てません。