[NO.1150] 貼雑年譜

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貼雑年譜/江戸川乱歩推理文庫 特別補巻
江戸川乱歩
講談社
1989年7月25日 第1刷発行
1990年1月10日 第3刷発行

惜しむらくはカラー版ではなかったこと。そちらも出版されているので、できれば目にしたいものだが、値段が高い。今となっては古書価も上がってしまい、とてもとても。

もともと自己愛に富んだ乱歩氏のことだから、こんなものだろうとは思っていた。それに、噂に高い『貼雑年譜(はりまぜねんぷ)』の内容は飛び飛びながら存じていたし、予想どおりの内容だったので、やっぱりなあといったところ。ちょろっと引っかかったのは、父親が破産したので、それ以前の記録がないというところ。つまり、こうした記録を始めたきっかけは、家が破産したことによるのかもしれない。それまでのノート類などを散逸してしまったのだろう。乱歩氏にとって、それはあまりにも切ない出来事だったはず。余人には計り知れない悔しさとして記憶に刻まれたのではないだろうか。
しかし、まあ、なんといっても、なんでも残しておいて、こうして整理することが好きだったという彼の資質こそが、本書の成立した一番の理由だろうが。

それにしても、若いころのあまりにも行き当たりばったりな人生にあきれるばかり。全然計画性というものが感じられない。もちろん、謙遜と韜晦も混じってはいるのだろうけれど、自身の筆で書いた文章を読む限りでは、なんとも軽はずみな選択ばかり。それに反して、戦後になってからの編集者、経営者としても活躍ぶりは目を見張るばかりで大違い。

もっとも特徴的なのは、巻頭において中島河太郞氏が述べているように家の間取り図であろう。出生以来都合46回の家に住んだというそのすべての間取り図を書いている。まるで井上ひさし氏の創作ノートのよう。はたまた、かつて流行った妹尾河童さんの間取り図を想起させるような、方眼紙に書いた詳細なもの。