虎よ、虎よ!/A HAYAKAWA SCIENCE FICTION SERIES No.3068 著者 A・ベスター 訳者 中田耕治 早川書房 昭和39年6月10日 印刷 昭和39年6月15日 発行 |
噂に名高いSF古典。(判型がポケミスと同じ。)これでやっとあの名作を読むことができるぞと喜んだのもつかの間、なんだかおかしな内容にちょっと興醒め。いや、ストーリー自体は荒唐無稽で面白かったのですよ。まるでギリシャ神話みたいで、次から次へと引っ張り回される展開にはなるほどと思ったし。かつてのパルプマガジン風とでもいうか。こちらの側の期待が夢膨らみすぎたのでしょうか。
ディーゼルエンジンが出てきたところで、一瞬ページをめくる手が止まりました。宇宙を飛び回るSF小説、スペースオペラなんですから。2個所出てきたのですが、最初の方は読み飛ばしていたために、再度発見できず。後者のほうは、ここ。
(p148) フォイルはジーゼル・トラクターのようにドアをぶちぬいて入った。
「ジーゼル・トラクターのように」という比喩表現には脱帽しました。
放射能におかされたため、一日につき30分間しか会うことが出来ないという設定にも、唖然。いちばん気になったのは「ジェットを噴射」というところ。せめてロケットエンジンとジェットエンジンの違いは、書き分けて欲しかったかなあ。真空の宇宙空間でジェットエンジンは使えないよ。SFなんだもの。
ついでに訳について。思わず訳者名を見直してしまいました。あの翻訳家の中田耕治氏なので、いやそんなはずはないと思いかえしたり。それでも日本文に、こなれていないとしか思えないところがちらほら。がんばって読んでみても意味のとおらないところは、どうしようもないかなあ。で、どう考えてみても、やっぱり訳のほうに原因があるとしか思えなかったりして。文庫版と比較してみればいいのかも。
こんなシュールなのは、まるで萩原恭次郎の詩を連想してしまいました。以下のページ。中田さんの検印がしっかり押してあります。別紙のカードに押して、それを貼ってあります。この印、いいなあ!
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