[NO.912] 想い出のブックカフェ 巽孝之書評集成

bookcafe.jpg

想い出のブックカフェ 巽孝之書評集成
巽孝之
研究社
2009年2月20日 初版発行

 『「2001年宇宙の旅」講義』(平凡社新書)の著者。この本は以前手にするも、読み通せなかったので記憶。

 本書は書評中心なので、パラパラ気に入ったところの拾い読みで楽しめました。文章が面白し。

p162
「朝日新聞」2007年1月21日掲載
私のハードボイルド 固茹で玉子の戦後史 小鷹信光著
 「日本のハードボイルドの夜明けは、いつくるんでしょうかね。コダカノブミツさん?」――これは名優・松田優作扮する工藤俊作探偵が、1970年代末の人気テレビドラマ『探偵物語』で呟いたアドリブの台詞である。たしかに、ダシール・ハメット『マルタの鷹』の翻訳からミッキー・スピレーンら作家別短編集の編纂、ミステリ評論や研究、ひいては『探偵物語』の原作小説執筆までを長年こなしてきた小鷹信光の名は、我が国ではこのジャンルの代名詞になりおおせてしまった。したがって、本書も決して自伝ではなく、なおも飽くことを知らぬ探求心の結実である。

 こんな書き出しで始められてしまっては、読みたくならざるを得ないでしょう。朝日新聞の書評の中で、冒頭からこれだけの「つかみ」は、めったにないもの。

 どちらかというとSF畑かとおもいきや、そんなことない。20世紀アメリカ文学がより面白くなる本。

 3人の対談集が収められている中、相手の四方田犬彦、高山宏、というのは見当が付いたけれど、ロシア文学者沼野充義氏というのはあれ? といった感じ。その理由はスタニスワフ・レムを通してということで、納得。

   ※   ※

【再読】
 何遍読んでも本書の魅力はつきない。今回は「プロローグ」にあった喫茶店と読書についての記述に惹かれた。以下引用。
 古き良き喫茶店がつぎつぎとすがたを消すようになって、もう久しい。
 たとえば、かつては――そう、少なくとも1980年代ぐらいまでは――待ちに待った新刊がついに出たと聞けば、書店で奪うようにして買い求め、矢も楯もたまらず最寄りの喫茶店に飛び込み、インクの香りも芳醇なその1冊を、コーヒー1杯でむさぼり読んだものだった。

途中略
 しかし、20世紀末、とりわけ1990年代はインターネットの発展と喫茶店の衰退とが着実に連動した10年間だった。それは、かつて喫茶店を中心に成立していた読書文化とそれをめぐる共同体が、ネット上の仮想空間で再現されるようになり、その結果、必ずしも顔を付き合わせることがなくとも、それこそハンドルネーム自体を顔のようにして、かつての本をめぐるおしゃべりもたやすく疑似体験できるようになったことに因るだろう。以下略。