[NO.836] 岩本素白全集第三巻

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岩本素白全集第三巻
岩本素白
春秋社
1975年11月30日 初版第1刷発行

 偶然、qfwfqの水に流しての中、下記の記述に出会いました。
「では貴方、岩本素白は読んでいますか?」

 読んでいるという「僕」に老人は重ねて問う。「では貴方、全集の第三巻。一八六ページの項は覚えていますか?」。一、二巻は随筆なので古書店で買ったが三巻は文学研究なので買わなかったという「僕」に老人は、
 「それは貴方、浅はかですよ。岩本素白は日本で初めて随筆講座を開いた人。そしてこれから随筆を学ぶ貴方にとって、岩本素白こそ先生にするべき人です。文学の玄人は、岩本素白を明治以降の最高の古典的随筆家と口を揃えます。彼の随筆は全集のみならず、『素白随筆』(春秋社・昭三八年)で容易に読むことができるが、文学論文は全集以外で探すのは難しいんです。とにかく随筆を学ぶ上で、全集の三巻を読んでいないと、始まるものも始まりません」


出典は『群像』(2006年)「僕の古本修行」(松浦弥太郎)だそうです。
 で、読みました。p186「国文学に於ける随筆の地位と其の特質」。「はしがき」によれば、
昨年六月文部省に開かれた日本諸学振興委員会国語国文学会で話した筆記である。
とあります。その日付が昭和十七年九月とあるので、実際に話されたのは昭和十六年のことでしょう。

目次
日本文学の写実精神
 はしがき
 日本文学の写実精神
 日本文学に於ける詩精神と散文精神の交流
 歌物語以前の写実的短篇
 古民謡の味
 清少納言の作物と其の都人的特殊性
 徒然草談義
 挙白集を語る
 国文学に於ける随筆の地位と其の特質
文芸論叢
 日本文学に於ける漫画の創始
 歌人長嘯子
 随筆の底を流るるもの
 市井を描く人々
 江戸繁昌記瞥見
 冑山掃墓記
 江東訪碑記
 「磯山千鳥」と「下馬のおとなひ」
 三馬の滑稽とその深さに就いて
 その頃――若き日の『茜雲』の著者の思い出
 学生時代の窪田空穂
 窪田空穂と源氏物語
 空穂と平安朝文学
 『六月の海』の著者について
 『淡き銀河』の作者について
信濃詠草

ああ、岩本素白先生  山路平四郎

「岩本素白全集 栞」
布佐の宿       さねとう けいしゅう
素白先生の書簡  森伊左男
父・母を語る     岩本竹郎


 岩本竹郎氏による「父・母を語る」にある、
古い時代に育った私は漢字と仮名を考えながら程よく組み合わせて綴られた古い文章を読むとき、使われた漢字からくる「感じ」や、漢字と仮名による「間」のとれた余白に云い知れない愛着を感じていたせいか、当世風の当用漢字や仮名遣いはどうも苦手である。
 素白の随筆なども原文のままを、これと同じような気持ちをもって、静かに味わいながら読むべきものではないかと思うのは手前味噌のことであろうか。
 また、本は、殊に随筆の本などと云うものは内容の流れを釘の上に十分表現しなければならないと思うし、それも一切自分が手がけない限り思い通りにはならない世の常の経験もなめている私は、ひけらかすことが嫌いで独り読み、独り書くことを楽しみ、その作品を出版することすら好まなかった父の気持ちの中にも、それと同じようなことがあったのではなかろうかと重いめぐらして逡巡しているうちに歳月がながれてしまった。

という文章を読むにつけ、文語で書かれた旧字のままで読みたくなります。もっとも、初版など、とうてい手にすることはかなわないでしょうが。