[NO.769] あびこ版 新編利根川図志

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あびこ版 新編利根川図志
赤松宗旦 原著
我孫子市教育委員会刊
平成2年3月3日 発行

 知らないとは恐ろしいもので、手にするまで本書を侮っていました。ユニークな方針に沿って作られています。毎夜、読みふけってしまいました。気持ちは利根川周辺をさまよいながら。

 上下2段の構成になっており、上段には原本の写真。下段には今回、新に書かれた文章。この下段に載せられた文章が実に面白い内容なのです。本書中、説明があるので抜粋すると
p13
下段に原本の記載事項二五〇の「現在」を記した。したがって、この書は宗旦が取り上げた項目について、約一三〇年前の十九世紀のかつての「現在」と、二十一世紀まで約十年の現代における「現在」を、徹底して現物や現地に接して、それを対比してみたものである。本書で紹介される事項については、ひとつ残らず現地に出向いて記したことを述べておく。また、それぞれの項目を宗旦が記した行数と同じく合わせて述べてみた。
途中略
 こうした多様な性格をもつ本書は、歴史好きの多くの我孫子市民の参加によって編集執筆がなされた。いずれも読書家であり、古文書好きであり、散策好きの人々である。わずか一行を記すにあたっても、文献や古記録を調べ、遠近にこだわらず現地を訪ねている。したがってこのような本が出来上がった次第である。以下略

 実に自信に満ちた言葉にあふれています。まだまだ、特色はたくさんあり、後ろには『利根川図志後編草稿巻一』も掲載。なにより、巻頭の松岡文雄氏による「緒言」が興味深い。これだけでも一読の価値有り。

 我孫子市民の方々による現地レポートみたいな文章が、なかなか読みごたえあるのです。上記のとおり、250もの項目を我孫子市民が分担。短いものはほんの数行。長くなると、まるで一編のエッセイのようなものも。しかも、短くても執筆者は心をこめて書かれたのだろうと推察されるものばかり。
 p95「手賀沼」の項は、そのエッセイとしての好例です。ご主人と愛犬を旅の友に自動車で回られたとのこと。出だしは矢切の渡し、終点が宗旦の地である布佐。最後に旅の記念にと、ご主人には(布佐の)土手沿いにある酒屋で地酒"布佐"を、愛犬には来見寺前の肉屋のトンカツを贈った、のだそうです。数日前に布佐へは行ってきたばかりなだけに、ああ、あの店だろう、と思い浮かべながら読みふけりました。本項執筆者水津敦子氏にお礼を申し上げたい気分。

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