[NO.532] 独立書評愚連隊 天の巻

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独立書評愚連隊 天の巻
大月隆寛
国書刊行会
2001年4月25日 発行

前書きにかえて
 書評の本、である。
 八〇年代半ばから約十五年分、三流大学院生の身すぎ世すぎでもの書き稼業に足踏み入れてこのかた、いつしかつもりつもった書評仕事二部CD評、劇評など含むが)が、原稿用紙に都合二、〇〇〇枚以上。それを気合いで二冊にまとめた。
 目方で男が売れるなら/こんな苦労もするまいに、と歌ったのは車
次郎だったが、この本は目方で売る。目方で質を保証する。ひとりの書き手が仕事としてずっと読み続けた本の書評だけを、これだけ一気にまとめた本はこれまでほとんどないはずだ。
 書評は思想である、言論である。
 稼業としての書評書きには、すれ違いざまに敵の急所を一撃でしとめる技術と、それを芸として見せる懐の深さが同時に求められる。だから、一枚看板の下で一点透視に語られる活字の書物の品定めは、その読み手の素性や器量まで逆にきっちりあぶり出す。
 通りいっぺんの要約書評や、お追従笑いな提灯持ちのヨイショ書評でなく、固有名詞の下に制御された芸としての書評。少なくとも、書評読みとしてのあたし はそういう書評が読みたい。だから、自分でもそういう書評を志してきた。そして、世間の本読み、活字好きにもそういう人がたくさんいるはず、と頑なに信じている。
 独立書評愚連隊、というタイトルには、そういう野育ちの知性、独立独歩のワープロ無宿としての、望息気をこめたつもりだ。下敷きはもちろん岡本喜八。ご存知の向きには、あの若き日の佐藤允の白い歯見せてニッコリ実った顔と、「♪イーリャンサンスー、イーリャンサンスー......」という主題歌の響きを想いなが ら読んでいただけたら、きっと気分だ。「隊」っておまえの他に誰がいるんだ、てなツッコミには、はばかりながらこちとらワンマン・アーミー、一騎当千の義 勇兵(ヴオランデイアー)だい、と応じておこう。もちろんそう言挙げしてみせる背後には、このご時世になお活字の力を信じ、書物の航続距離に未来を託そうとする、そんなまだ見ぬ友軍が必ずたくさん控えているはず、という信心あってのことだ。
 言ったように、この本は「天の巷」「地の巻」の二巻に分れている。とりあげた本の中身に合わせてざっくり章立てして、その中で基本的に時系列で書評原稿を並べた。そして、煩雑にならない程度に各原稿の末尾に、現時点からのコメントをつけてある。関連分野の本の情報や、書き手についての補足情報などが主になったが、評者であるあたし大月のものを考えるスタンスを知ってもらう意味でも役に立つはずだ。
 また、「地の巻」の末尾には、書名と著者名の双方から引ける索引をつけてある。本好きの便宜を図ると共に、八〇年代未から九〇年代いっぱいの同時代の思想状況を総覧してゆくためのガイド・ブックとしても使えるように配慮したつもりだ。
 というわけで、前説はこれくらいにしよう。「書評」という制度の内側でのあたしの、ここ十五年ばかりの仕事はひとまずこんなものだった、ということで。
 まず、読んでくれ。おもしろいのは保証する。
                     大月 隆寛