[NO.358] 編年体 大正文学全集/第十四巻 大正十四年

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編年体 大正文学全集/第十四巻 大正十四年
著者代表 稲垣足穂
編者 安藤宏
株式会社 ゆまに書房
2003年3月25日 第1版第1刷発行

 これも偶然手にした本の中、当たりでした。少年時代に愛読していた作品に触れ、懐かしさだけでなく、あらためてほっとするような気分にひたることができました。具体的には「詩歌」です。このあたりの詩を中学生で好んでいました。山村暮鳥や八木重吉と並んで、安西冬衛や高橋新吉の詩がすんなりと入ってしまっていたの は13・14歳ころのことです。萩原朔太郎の大渡橋が国語の教科書に掲載されていたのは高校生のときでした。今ではそんなこと、すっかり忘れていました。年度末で時間がない中、読書を途中で止められず夜更かしの連続です。

 この年、大正14年というのも不思議な年ではないかと考えさせられました。芥川龍之介がまだ生きていて、そこに稲垣足穂や江戸川乱歩が重なっています。 梶井の檸檬は、この年でした! 同じく細井和喜蔵の女工哀史。今東光も、しっかり現役でいます。黒島伝治や葉山嘉樹は、もっと後かと錯覚していました。そこに村山知義。一番の驚きは、武林無想庵の『Cocu』のなげきでした。フランスへ行った後のことです。収録されている作家が、あまりにも錚々たるメン バーなのに頭がくらくらしてきます。
 まだ? 文学が文学であり、その存在が信じられていた時代。それは武林夢想庵の名前を見たからかもしれません。山本夏彦氏が中央公論の昭和16年9月号に書 いた「文學青年論」を連想してしまいました。その冒頭で「ある編集者によれば、東京には十万人も文学青年がいるそうで」とあります。昭和16年9月の時点で、文学青年が10万人。なんともはや! この3ヶ月後には開戦ですぞ。

目次
創作 小説・戯曲・児童文学
[小説・戯曲]
馬の脚 芥川龍之介
WC 稲垣足穂
血を吐く 葛西善蔵
檸檬 梶井基次郎
痩せた花嫁 今東光
濠端の住ひ 志賀直哉
隣家の夫婦 正宗白鳥
心理試験 江戸川乱歩
自刃に戯る火 小川未明
ぶらんこ 岸田国士
未解決のまゝに 徳田秋聲
氷る舞踏場 中河与一
檻 諏訪三郎
首 藤沢桓夫
兵士について 村山知義
電報 黒島伝治
暮笛庵の売立 室生犀星
静かなる羅列 積光利一
女工哀史(抄) 細井和喜蔵
青い海黒い海 川端康成
『Cocu』のなげき 武林無想庵
鏡地獄 牧野信一
浅倉リン子の告白 松永延造
淫売婦 葉山嘉樹

[児童文学]
子供と太陽 北川千代
虎ちゃんの日記 千葉省三
甚兵衛さんとフラスコ 相馬泰三
「北風」のくれたテイブルかけ 久保田万太郎

評論 評論・随筆・インタビュー
新進作家の新傾向解説 川端康成
「私」小説と「心境」小説 久米正雄
感覚活動 横光利一
再び散文藝術の位置に就いて 広津和郎
葛西蓄蔵氏との藝術問答
文壇の新時代に与ふ 生田長江
生田長江氏の妄論其他 伊藤永之介
文彗時代と未来主義 佐藤一英
コントの一典型 岡田三郎
末梢神経又よし 稲垣足穂
日本の近代的探偵小説 平林初之輔
新感覚派は斯く主張す 片岡鉄兵
『調べた』藝術 青野草書
小説の新形式としての「内心独自」 堀口大撃
文藝家と社会生活 山田清三郎
泉鏡花氏の文章 片岡良一
人生のための藝術 中村武羅夫
「私小説」私見 宇野浩二
表現派の史劇 北村喜八

詩歌 詩・短歌・俳句
[詩]
野口雨情 雨降りお月さん
高村光太郎 白熊 傷をなめる獅子
山村暮鳥『雲』(抄)
北原白秋 ペチカ 酸模(すかんぽ)の咲くころ アイヌの子
加藤介春 変態時代 うどんのやうな女
萩原朔太郎 沼沢地方 郷土望景詩(小出新道 新前橋駅 大渡橋 公鼠の椅子) 大井町から
川路柳虹 新律格三尊(抄)田園初冬 我
室生犀星 星からの電話 明日
内藤鋠策 きれざれのことば
深尾須磨子 貝殻
佐藤惣之助 わが秋(抄)月飲 産の中
堀口大學 晩秋哀歌 詩
金子光晴 路傍の愛人
宮沢賢治 心象スケッチ負景二篇(命令 未来圏からの影) 丘陵地
八木重吉 『秋の瞳』(抄)
安西冬衛 戦争 曇日と停車場 曇日と停車場
萩原恭次郎 食用蛙 日比谷
北川冬彦 『三半規管喪失』(抄)
岡本潤 写真版のやうな風景
春山行夫 赤い橋から(墓地 人世)
草野心平 蛙になる 青い水たんば 蛙の散歩
林芙美子 酔醒 恋は胸三寸のうち
竹中郁 雪 川 撒水電車 晩夏 花水 氷菓(アイスクリーム)
大関五郎 ひるすぎ 蚤 春
小野十三郎 沿線 快晴
瀧口武士 曇った晩 貿易 海
黄瀛 雪夜 喫茶店金水
竹中久七 水に映る スタートの壮厳な展望
高橋新吉 歌まがひの詩

[短歌]
与謝野晶子 渋谷にて
木下利玄 曼珠沙華の歌 夕霧
若山牧水 沼津千本松原
若山喜志子 春とわが身と
北原白秋 明星ヶ嶽の焼山
釈迢空 枇杷の花
前日夕暮 林道
古泉千樫 稗の穂 寸歩曲
土岐善麿 紙鳶揚
窪田空穂槍ヶ岳西の鎌尾根 ○
植松寿樹 ○
岡麓 ○
島木赤彦 ○
平福百穂 ○
斎藤茂吉 ○ ○ ○ 童馬山房雑歌
中村憲吉 高雄秋夕 ○
土屋文明 湯元道 ○
藤沢古実 父を葬る
太田水穂 錦木 信濃にて
四賀光子 霜枯
[俳句]
ホトトギス巻頭句集
『山廬集』(抄) 飯田蛇筍
〔大正十四年〕 河東碧梧桐
〔大正十四年〕 高浜虚子
解説 安藤 宏
解題 安藤 宏
著者略歴