[NO.338] 誤読日記

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誤読日記
斎藤美奈子
朝日新聞社
2005年7月30日 第1刷発行

p97
『東京ご利益散歩_七福神巡り』畑中三応子
(平凡社・2003年12月・952円)
六本木ヒルズも素通りする、ばあさん気分満載の裏路地「東京物語」

p297
『ぎりぎり合格への論文マニュアル』山内志朗
(平凡社新書・2001年9月・700円)
論文審査に通りたければ「言い換えフレーズ」を学べ
著者の山内さんは中世哲学の専門家。この本は、論文らしさを演出するための「すぐに使えるフレーズ集」が秀逸なのだ。
〈この節ではこのことを中心に論じるつもり〉は、〈この節では以上のことが論じられる〉と書くと論文らしくなるというのだ(木下是雄さんはこういう受身形を批判していたが)。
 そんな調子で、〈論文がグチャグチャになってきた。ここまで書いたことを消すのはもったいないから書いておくが、ここまで書いたことは忘れてほしい〉と いうときは、〈「話が錯綜してきたので、話を戻すと」〉、あるいは〈「議論が盤根錯節し(ばんこんさくせつ)た観を呈してきたので、原点に戻って議論の筋 道を確認しておこう」〉と書く。
〈根拠のないことを書くことになり、そこを突かれると困るので、見逃してもらいたい〉というときは→〈「根拠は必ずしも十分ではないが」〉。
〈私は分からない〉は→〈解明できた研究者は少ない〉
〈~はバカだ〉は→〈~の見解には再考の余地が残る〉
〈~は読みたくない〉は→〈~を正当に評価することは困難である〉
〈~を読まなかった〉は→〈~の評価はまだ定まっていない〉
 冗談とも本気ともつかぬ言い換えマニュアル。表面だけ取り繕えばいいっていう発想。論文作法、マクドナルドの接客マニュアルと、じつは大差ないのかもし れぬ。目的はあくまで論文審査をクリアすること。心のこもっていない文章を書きたい人にもおすすめの1冊だ。

 相変わらずの斎藤節全開? 本文389ページと読み出がありました。有名どころが多く、またすでに読んでいた本もあって、思いのほか読みやすかったです。巻末に著者名と書名の索引完備。これが大切です。