特集の「河出書房新社を探検しよう!」は読み応えあります。特に坂本一亀について。社内のあれやこれやもミーハーの興味をわくわくさせてくれました。
P40
私の河出書房新社本
オールタイム
ベスト3!
柳下毅一郎
(3)『蒸気駆動の少年 (奇想コレクション)』
ジョン・スラデック(著),柳下毅一郎 (翻訳) 2008/2/19
荻原魚雷
●鋭く温かいコラム集
(1)『橋本治雑文集成 パンセⅦ その他たちよ!』
(2)『男のコラム』1・2 マイク・ロイコ、井上一馬訳(河出文庫)
(3)『アップダイクと私』ジョン・アップダイク、若島正編訳、森慎一郎訳)
(1)全七巻の雑文集成の最終巻。同巻には「河出文庫をおススメする」という雑文も収録されている。同文庫が〝文芸書〟から〝不思議な雑多〟の文庫に移り変わっていったことにたいし、中心の教養がないまま周辺の〝雑〟に走ったら「人生経験のないまんまに訳知り顔をしている坊や顔した横町の隠居になるだけじゃない」と苦言を呈す。今読んでも胸に突き刺さる痛い言葉だ。わたしの場合、河出文庫に入ってから読んだ橋本作品も多い(『ぼくたちの近代史』など。
(2)ボブ・グリーン、ラッセル・ベイカーなど、八〇年代末から九〇年代にかけて、河出はアメリカのコラム集を立て続けに刊行していた。中でもシカゴ生まれで十三歳からバーテンダーをしていたマイク・ロイコのコラム集は傑作かつ怪作。『男のコラム』シリーズは『クリスマス・コラム』(河出書房新社)という第三弾も。
(3)エッセイと書評を集めたアンソロジー。文学、漫画、映画、野球、ゴルフ、ポーカーと守備範囲が広い。どの文章も鋭さにくわえて、どこか温かみがある。
「日本の小説はどれもこれもみな、英訳版で読めば、日本独特の含みと抑制のせいで声がくぐもって聞こえると誤解してはいけない」
夏目漱石と谷崎潤一郎についての評論の一節だ。村上春樹のある作品の書評も収録。
→〈村上春樹のある作品の書評〉ってなんだ?
P44
●読者アンケート
河出書房新社の
ここが好き、嫌い!
P46
KAWADE夢ムック・文藝別冊が好きだ!
P47
好き
東郷えりかの翻訳書
☆数年前、2冊続けて河出書房の訳書を読んだところ2冊とも、東郷えりかという翻訳家だった。
読んだのは『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』と『世界の起源 人類を決定づけた地球の歴史』。両方とも著者は英国の宇宙物理学者、ルイス・ダートネルだ。いずれも現在、当たり前のように享受している環境や技術、医療などについて、どのような紆余曲折を経てここに至ったか、を教えてくれるよい本だった。
こんな本を翻訳するのは大変だったろうなあ、どんな人かな、と東郷えりか氏について調べてみたところ、何と、手掛けた訳書の殆どが河出書房毎年のように出版されていて、その分野は自然科学、医学、環境、地学、歴史と広範だ。これはもう、こういう科学書の翻訳は東郷えりか氏に、と河出書房が一択で託しているのだ、きっと。
この夏にも、河出書房から同じタッグで『この身体がつくってきた文明の本質』という面白そうな本が出るらしい。ずっと贔屓にしよう!と楽しみに待っているところである。
(唐木幸子・黄昏の銀笛吹き69歳・立川市)
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P52
●続・百歳までの読書術
やはり「百歳まで」は無理だよ
=津野海太郎
やんややんやの喝采、待ってました! といったところです。
老人になってからの読書というテーマで、津野海太郎さんは何冊か著書があります。そのどれもが、現在のわたしにとっては興味深いのです。気になって仕方がありません。(なにしろ、小林信彦さんが、これ以上エッセイも含めて書けそうにないみたいなので)。
「老人読書」シリーズ と津野さんは呼んでいます。いいなあ、「老人読書」シリーズ。
年寄りが若い人に向かっておしゃべりしているかのような「文体」が、たまりません。内容は当然のことながら興味津々です。漱石「思い出すことなど」を、津野さんは高校生の頃から繰り返して読んできたといいます。へーえ、ですよ。
2024年1月に自宅の階段の三段目から落ちて、「あやうく死ぬ寸前のところまで行ってしまった」というところを読み、ひやっとしてしまいました。小林信彦さんが転倒をして入院したことを思い出します。ああ、谷啓さんやなかじまらもさんは、階段から落ちたことが死因だったはずです。
P53
なにしろ私は、これまでに出版した三冊の「老人読書」本で、鶴見俊輔や橋本治や坪内雄三をはじめとする「死者列伝」を、延々と書きつづけてきたのでね。わざわざ数えるまでもなく、これまでに登場してもらった先行諸氏のうちには、九十歳以上の人など、ほんの数人しかいなかったんじゃないかな。
ただし男よりも余命が長い女たちは別よ。現に百歳前後の女性作家は何人もいるが、九十歳を過ぎて盛んに活動している男性作家など、ほとんどゼロにちかいのだから。
その証拠というか、二十代なかばに友人たちとはじめた晶文社(中村勝哉、小野二郎、平野甲賀、長田弘)や、六月劇場(岸田森、草野大吾、村松克己、佐伯隆幸、山本清多、デイヴィッド・グッドマン)の連中など、そのすべてが呆気にとられるほどの勢いで消えてしまった。対するに私より先に消えた女性など、晶文社と六月劇場を合わせても、樹木希林(=悠木千帆)ひとりしかいないのだからね。
――などと平然と書いてはいるけど、おれだって、まったく寂しくないわけじゃないのよ。でもさ、「寂しい」より、どちらかといえば「つまんない」という感じの方に近いかな。過ぎし日の数々の記憶のあれこれをサカナに陽気に酒を飲む。そんな楽しみも、とうの昔に消えてしまったしね。
そういえば、しばらくまえ、『かれが最後に書いた本』のあとがきで、「ついさっき動きを止めた人間」と「もうじき動きを止める人間」との「三途の川をはさんでの人間同士のさしのつきあい」と書いた。そんなドライな空気の中で、ほどなく私も、かれらのあとを猛スピードで追いかけることになるのだろう。いまはまア、そういった感じかな。
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と、こんないきさつもあって、昨年の秋ごろから浜本さんと、せっかくこの欄ではじめた「老人読書」シリーズなのだから、どうせなら同じ場所で終わりにしたいね、などと話すようになっていたのです。
ここにつづくまでの本稿冒頭からの流れが、読み返せば読み返すほどにうまくできていて、(同時に自分の読解力の不足を教えられ、情けなくなりつつも)「こりゃあ私小説ですよ」と(植草)甚ちゃん風にうなるしかありません。
きりがないので、このへんでやめにします。そしてなにより、今後のつづきが楽しみです。
ところで、先の〈これまでに出版した三冊の「老人読書」本〉とは、具体的には何を指すのか?
『百歳までの読書術』(本の雑誌社、2015年) 『最後の読書』(新潮社、2018年) 『かれが最後に書いた本』(新潮社、2022年) |
『読書と日本人』(2016年)というのもあります。 |
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P62
新刊めったくたガイド
●大森望
高野史緒の書痴小説集
『ビブリオフォリア・ラプソディ』に◎
『ビブリオフォリア・ラプソディ あるいは本と本の間の旅』(高野史緒、講談社、1700円)
大森望さんがベタぼめですね。
日下三蔵風の古本マニアが夢のような古書店に溺れる話......。本誌読者なら楽しく読めること請け合いの書痴小説集。
〈書痴小説集〉という単語は、オリジナルの語なのでしょうか。
『天才少女は重力場で踊る』(緒乃ワサビ、新潮文庫、710円)
『白昼夢の青写真』などのビジュアルノベルで知られる著者の初小説。
『歌う船[完全版]』(嶋田洋一訳/創元SF文庫、1400円)
今や古典的名作の地位を確立した人気作のリニューアル。
最後に小説外を2冊。
『宇宙開発の思想史 ロシア宇宙主義からイーロン・マスクまで』(フレッド・シャーメン、ないとうふみこ訳/作品社、2700円)
「人類は宇宙に進出すべきである」という主張の歴史を150年にわたって(批判的に)たどる研究書。著者の主張には異論のある人もいるだろうが、ツィオルコフスキーの『地球をとびだす』とか、フォン・ブラウンの『プロジェクト・マーズ』とか、科学者が書いた(多くは未訳の)SFが大量かつ詳細に紹介され、それだけでも楽しい。SF作家のSFも当然多数登場する。同書でも紹介されるロシア宇宙主義の論考とその解説を集めたのがボリス・グロイス編のアンソロジー『ロシア宇宙主義』(乗松亨平監訳、上田洋子・平松潤奈・小俣智史訳/河出書房新社、3600円)、すべての生けるものが集うフョードロフの誇大妄想的(バカSF的?)博物館論に始まり、奇々怪々な思想が次々に開陳される。ネタ本としても貴重。
そういえば、『何用あって月世界へ/山本夏彦名言集』がありました。
P68
新刊めったくたガイド
●東えりか
興奮と驚きの支援テクノロジー最前線
『ハイブリッド・ヒューマンたち 人と機械の接合の最前線から』(ハリー・パーカー、川野太郎訳/みすず書房、3000円)
著者は2009年にアフガニスタン紛争に従軍、即席爆発装置を踏み両足を失った英国人だ。著者近影は義肢ではあるが杖もつかずにすっくと立っている。退役後に小説家になり、本書では自身の義肢から始まる障害者の支援器具の最前線を当事者の目線で取材していく。
本書では、これらのような人(何かの器具を必要として生活している人)が生きる上で必要とする器具と技術を《支援テクノロジー》と呼ぶ。その技術の発展は目覚ましく、装着するもの(ウェア)から身体に機械を接合する(著者はハイブリッド・ヒューマンと呼ぶ)段階になりつつある。(途中略)獅子を損失しながら生きのびた古代人は、なんらかの補助器具を考案してきた。そしていま、脳に直接接続するとことまできた。
本書で一番驚かされたのが「オッセオインテグレーション」という技術だ。義肢の場合は大腿骨とチタニウムのインプラントを直接節夫具してしまう。つまり取り外ししなくてもいい。(以下略)
さらにリアルなのが、三宮麻由子『わたしのeyePhone(アイフオーン)』(早川書房、1900円)である。著者は幼い頃に眼病で失明した「シーンレス」エッセイスト、視覚以外の感覚を繊細に伝えてくれてきた。そんな日常を激変させたのがスマホの導入だ。まさに「ハイブリッド・ヒューマン」になった日々が綴られる。
『小山田圭吾 炎上の「嘘」 東京五輪騒動の知られざる真相』(中原一歩、文藝春秋、1500円)
『人間の証明 勾留226日と私の生存権について』(角川歴彦、リトルモア、1200円)
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P79
いつか、あの博物館で。/ アンドロイドと不気味の谷
朝比奈あすか
東京書籍
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P80
SF新世紀
春暮康一の第一長編
『一億年のテレスコープ』に
大注目!!
山岸真
早川書房
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P86
版元パラダイス
「軽出版」を実行する
破船房に注目!
竹田信弥
https://www.moderntimes.tv/articles/20230703-01oh/
『橋本治「再読」ノート』仲俣暁生、破船房
『新刊小説の滅亡』藤谷治、破船房
書店減少に政府が手を打つとか打たないとか。政府まで動き、多くの人が維持を望む書店とは、一体何を扱っているのだろうか。本とは何か。
今回は、編集者・物書き・大学教員等の肩書きをもつ仲俣暁生さんが立ち上げた破船房を紹介する。
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P98
●ディギン・イン・ザ・鈍色本
聖なるかな、
どいつもこいつも
●藤野眞功
健康食品やニキビ薬で知られるD・H・C。その社名は「大学翻訳センター」の頭文字に由来する。一九七二年の創業時、同社は法人向けの翻訳事業を柱にしていたからだ。
かつては出版事業も手掛け、語学関係の教材は評判が良かったそうだが、(以下略)
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P110
風来坊のあなた
源氏物語と紫蘇ジュース
●徳永圭子
源氏物語
角田光代
河出文庫
CD:大久保伸子
いつから夏はこんなにも暑くなったのだろう。全国の最高気温のニュースを見ると、馴染みの地名が並び、館林、熊谷、長岡など、幼い頃から酷暑の町で暮らしてきたことに気づいた。高校時代の5月、熊谷の八木橋デパートに夏の制服を探しに行ったことを思い出す。次の入荷は一か月先と言われて、耐えきれずに商店街の店先におばあさんが座っている暗い洋品店で買った。
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三角窓口
P130
△互いに面白本の情報交換をしている友達がいて、その友が「読書三余」という言葉があると教えてくれた。一年の余りとされる冬、一日の余りとされる夜、時の余りとされる雨降りの「三余」である。これが読書に最適とする中国の古い言葉らしい。
なので夜も更けると「三余、さんよ」と唱えながら本を抱えて布団にもぐる。大抵は眠気が勝って残念なことになるらしいが。(以下略)
(大藪葉子・メダカのお守り係73歳・岐阜市)
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P133
即売会の世界
石川春菜(八画文化会館)
シェア型書店について紹介します。
神保町にある2店、仏文学者鹿島茂プロデュースの共同書店「PASSAGE by ALL REVIEWS」と作家今村翔吾による「ほんまる」。
3店目が高円寺「そぞろ書房」。点滅社と小窓社という独立系出版社が共同で営む。自社棚には新刊やZINEもあって『そぞろ日記vol.1 2023年4月~10月』等を購入したとありました。