[NO.1634] 暗がりで本を読む

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暗がりで本を読む
徳永圭子
本の雑誌社
2020年10月31日 初版第1刷発行
204頁

『本の雑誌』連載記事を読んでいて、このごろ気になる書き手が徳永圭子さんでした。たとえば、こちら 

「本の雑誌」2024年6月 板わさ雨宿り号 No.492 特集:研究者の本が面白い! 

この雑誌の記事で、佐多稲子の『キャラメル工場から』を紹介しています。以前、小林多喜二の『蟹工船』が若者に読まれているという記事を目にしたことを思い出しました。

ネット検索すると、著者は大手書店の丸善・博多店に勤務。本屋大賞の発表会では司会を勤めたとか。思わず覗いてしまいましたよ。ユーチューブ 【2024年本屋大賞】宮島未奈さん『成瀬は天下を取りにいく』が受賞!-全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本-【発表会ノーカット】(2024年4月10日)ANN/テレ朝 リンク、こちら  残念ながら画面の左端に小さく映っているだけですが、お声はしっかり聞くことができます。

 ◆ ◆

徳永圭子さんは丸善書店に就職するまで、本との付き合いは、ほとんどなかったといいます。書店ではファッション雑誌くらいしか関心がなかったとも。

大学卒業時、就職活動がうまくいかなくて、たまたまお入社できたのが丸善書店だったといいます。ところが、『本の雑誌』の記事を読む限り、とてもとても。読書に縁がなかったとは思えない文章で、ほかの書評家のみなさんの文章よりも風格(?)さえ感じます。

たとえば、本書『暗がりで本を読む』から。

P.11
 つながる日々を裏返せるほどの大きな嘘をつく度量はなかったが、小さな嘘でごまかしてなんとなく大人になった頃、重ねた嘘の裏付けが欲しくて、読書は始まったように思う。始まる動機は何につけ不純で、いつもどこかに隠しては漏れる。

サンドウィッチマン宮澤風にいわせてもらえば「ちょっと何言ってるか分かんない」です。それがあってか、一冊になって、まとまって読むと、文体が硬く感じられました。読んでいて心地よくはなくて、ちょっとがっかり。

つぎの引用はわかりやすい。

P.15
 図書館や書店、電車の中で読者を別世界に誘う視線の先には、本や雑誌、タブレット、スマートフォンなどがある。活字離れで大変でしょうという答えの用意された質問に、相槌を打ってしまう事もあるが、どのようにして読むかは、読者が決めること。書店は抗うことはできない。
 恐れているのは、誰もが長い文章を読まなくなること。書かなくなること。それが気づかないうちに進むことだ。店員がそこまで考えても仕方がないけれど、つい思う。

なるほどと思います。

おそれているのは、
誰もが
長い文章を読まなくなること
書かなくなること
それが気づかないうちに進むこと

本が売れる売れないより、もっと根底にある問題提起をしているのだということ。

 ◆ ◆

【本書で紹介された中、気になった本】
『90度のまなざし』(合田佐和子、港の人)
『建築文学傑作選』(青木淳選、講談社文芸文庫)
『マクソーリーの素敵な酒場』(ジョゼフ・ミッチェル、土屋晃訳、柏書房)
『傍観者からの手紙』(外岡秀俊、みすず書房)

【初出】
「記憶の蓋」「細い道を」「サンタがこない」「タイムレコーダーの前で」は書き下ろし
「灰色の空の思念と謎を追って」から「愚直な女性の『聡明な狂気』」は、西日本新聞より
それ以外は『本の雑誌』2015年1月号~2018年12月号掲載


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先日アマゾンで購入した吉川弘文館の『標準世界史地図(2024―2025年版)』。画像も文字も小さいのが難ですが、薄っぺらなのに内容が濃く、見ていていつも時間を忘れます。

で、気になったことが。

『標準世界史地図』の表紙をめくった本扉に図版が入っています。

シェーネルの地球図 1523

ところが、こちらの氏素性、出典が皆目わかりません。ネット検索しましたが、結局のところわかりませんでした。

おそらく人名シェーネルさんが1523年に作製したのだろうと見当を付け、ネット検索したのですが、それらしいものがヒットしません。「検索条件と十分に一致する結果が見つかりません。」だそうです。

googl画像で表示させると、オークションサイトでの地球儀の写真にまじって、『標準世界史地図』の中扉画像が2枚出ました。検索語句を少しずつ変更させると、タイトル「大航海時代とルネサンス」というサイトがヒットしました。トップページに「シェーネルの地図」という文言があります。リンク、こちら  残念ながら図版はありませんでした。

大航海時代以降の世界地図の図版が掲載されたサイトでは、大阪工業大学「周縁副図から辿る世界地図の系譜」がありました。リンク、こちら  

結局のところ、「シェーネルの地球図」はネット上からは見つかりませんでした。似ていそうなのが、このあたりかな。

和泉市久保惣記念美術館 デジタルミュージアム ジェラルド・メルカトル、ヨドクス・ホンディウスの世界図 リンク、こちら 

大陸移動説の図版は、いくらでもヒットするのですがねえ。

検索しながら、疑問に思っていたことがあります。どうして『シェーネルの地球図 1523』は、地図の中央位置に日本を持ってきたのでしょうか? (実際には日本列島は記載されていませんが)

大航海時代やルネサンス期に作られた地図を見ていると、当然のことながらヨーロッパが中央に配置されています。日本を含め、東アジアは右の隅。16世紀の地図では日本の表示がなかったりします。

ところが、この『シェーネルの地球図 1523』では、ヨーロッパが左隅に追いやられ、描いてはない日本(の位置)が中央に置かれた、見慣れている大陸配置。この理由がわかりません。

 ◆ ◆

こんなリンク先を見つけることができたのは、成果のひとつでした。

古地図コレクション 国土地理院所蔵 リンク、こちら 

国土地理院ウェブサイト内のデジタルアーカイブです。


トップページに、こんな記載がありました。

カテゴリー
古地図の分類は、山下和正著『地図で読む江戸時代』(柏書房)による分類基準などを参考に、以下の基準に基づいています。

『地図で読む江戸時代』は定価 16,500円 もしたのが、アマゾン古書価格では1/3。

[NO.1633] 探究型読書

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探究型読書
編集工学研究所 著
クロスメディア・パブリッシング 発行
インプレス 発売
2020年08月11日 初版発行
191頁

「帯」から
著者の思考モデルを借り、短時間で高速に情報編集する。全く新しい読書法。

具体的にイメージしにくい「探究型読書」。WEB版 私立中高進学通信 に紹介がありました。リンク、こちら 

『探究型読書』プログラムの流れ
[step 1]
「図書館の本」から1冊選び、本の表紙と目次だけを見て内容を想像。必要な情報を書き出す「要約読み」を行う。
[step 2]
選んだ本を紹介する「帯」を作る。
[step 3]
選んだ本をほかの生徒が選んだ本と合わせて「みんなの3冊棚」を企画。「人間が生きるために大切なこと」など関連するテーマを見つけ、キャッチコピーをつけて紹介する。
[step 4]
選んだ本に新たな本2冊を加えて、自分の関心テーマを伝える「私の3冊棚」を企画。
[step 5]
自分が作りたい新書「エア新書」を企画し、内容を考える。

第五章で「かえつ有明中・高等学校 副教頭」先生の言葉に、「3冊棚」の説明があります。本を3冊選んで、何かしら自分の関心あるテーマを組み立てる。 3冊の本で作るコラージュみたい? たった3冊の本を選ぶという、お手軽な作業ながら、内容は深い。小学1年生の3冊と高校3年生の3冊とでは、選んだ本に大きな違いがあるでしょう。

P.100
(このプログラムで)の面白さは、最後に想像上の新書企画を立ち上げることです。自分が新書を企画するとしたら、どんなテーマで、どんな目次で、どんなことを書きたいかを考えてもらうというわけです。授業の終わりには、グループ内で発表する時間を設けています。このプログラムは基本的には1学期間、合計7回で終わります。
企業の研修よりもハードかもしれません。

 ◆ ◆

読みはじめてからしばらく経って、著者名を確認してしまいました。編集工学研究所って、「あの」松岡正剛さんのやっている組織の編集工学研究所だよなあ。奥付の上部、著者略歴には編集工学研究所の説明の下に3人の名前と略歴がありましたが、いくらページをめくっても、どこにも松岡正剛さんの名前は出てきません。(P.186に一ヵ所だけありました。)

そうか、そうか。現在は松岡正剛さんの手を離れて、組織が運用されているのだろう、と納得しました。これなら将来松岡さんになにかあったとしても、組織は存続していくのだろう、などと呑気に思ったりもして。

 ◆ ◆

今ごろになって気づきました。すでに松岡正剛さんが亡くなっていたなんて。それも8月12日だったというのですから、うっかりにもほどが。世情に疎くなるばかり。こりゃ、まずい。

 ◆ ◆

内容、構成ともに松岡さんのこれまでに出した本とは違います。たとえば、P.056 「探究型読書ノート」のご案内 なんて、らしくない典型では? リンク、こちら とりあえず、リンク先を削除しましたが、こちら(リクルート進学総研)のサイトのPDF記事から、QRコードが読み取れました。ページのいちばん下の方です。 リンク、こちら 

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QRコードまでついています。「探究型読書ノート」を自分でネット上からダウンロードして、書きこみながら実践するようになっているのです。図版が掲載されていますが、縮小されていて文字が読めません。資料ということでしょうか。それと別に、P.085〈章末付録〉探究型読書「書きこみ」ノート なるものが7ページ。

本書は自分で実際に試してもらいたいという思いが強く感じられます。

「本」をツールとして、「学校」では教育活動の一環としてとりあげています。企業では研修。具体例として「株式会社ポーラ 執行役員・人事戦略部長」「かえつ有明中・高等学校 副教頭」「IMD北東アジア代表」のお話が第五章にあります。

本はのんびり寝転がった姿勢で読み、ときにはそのまま寝落ちすること(「ぱさっ」と本が落ちる音がかすかに聞こえたときの、たまらない至福の感覚!)が日常である私にとって、これはとても異質な考え方です。どちらかといえば、いままで読むことがなかった傾向の本です。

自己啓発書が大嫌いだっただけに、もともと本書を読みとおす気はほとんどありませんでした。

 ◆ ◆

本書のなかで紹介していたのが、この「科学道100冊」。リンク、こちら 

理化学研究所・編集工学研究所共同プロジェクト「科学道100冊」。書籍を通じて科学者の生き方・考え方、科学のおもしろさ・素晴らしさを届ける事業です。2017年度から開始し、2019年からはシリーズとして毎年各テーマに合った100冊を選書しています。

 ◆ ◆

【重箱の隅つつくの助】

第五章 探究型読書を巡る3つの対話から

P.113
編工研:ところで、ポーラさんは非常に優秀な方々が多い会社さんという印象があります。人事担当役員として、今のポーラさんにどんな課題をお持ちですか?

P.119
編工研:ポーラさんは、コミュニケーション能力が高い優秀な人たちがたくさんいらっしゃる会社さんだなという印象があります。

いやはや、参りました。本当に使っているのですね。「さん」の多用。ここを読んで、違和感を抱かないのでしょうか? 感じないからこそ、この表記なのでしょうが。私なら、馬鹿にされているとしか思えないのですが。そしてあくまでも、「~という印象」なのです。せめて「印象」ではなく、「認識」くらいにして欲しかったな。

書籍化の際には、「編集」の側で、手を入れるでしょうに。校正もスルーですか。いったい「編集」ってなんでしょう?

たまたま、昨晩、読み返していたのが『カネ積まれても使いたくない日本語』(内館牧子、朝日新書413)の次のところでした。

第二章 過剰なへり下り
2. へんな敬語
(1)さん、様

P.48
 バス旅行で事故が起きた時、テレビでコメントした大学教授は「旅行会社さん」「バス会社さん」を連発。
 原発を今後どうするかということに関しては、電力会社幹部が「自治体さんとも相談の上......」と答え、担当社員は「他社さん」「他電力さん」という言葉を繰り返した。

 驚いたのは、ある薬局でのこと。私が入って行くと、女性薬剤師が20代らしき客に、
「一度、病院さんで診てもらった方がいいと思います」
 と言った。客は、
「病院には行ってるんです」
 と答えると
「大きな病院さんですか?」
 と聞く。若い客は「病院」と言うのだが、薬剤師は最後まで「病院さん」と言い続けた。

この『カネ積まれても使いたくない日本語』が出版されたのが、2013年。いまや定着されたということでしょうか。いや、それでもヘンじゃないか? 社内では、こんな日本語が飛び交っているのか? あの松岡正剛さんのところだよ?

滝沢カレン & 金田一秀穂

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NHK Eテレ
NHK 高校講座 ベーシック国語
講師 杏林大学教授 金田一秀穂
生徒 滝沢カレン
オウム ナイツ土屋伸之
今回の学習
ことわざ・慣用句


番組ホームページ」から 

先生「「口から先に生まれる」は?」
カレン「そんなこと、聞いたことありません。」
先生「あ、そう...。「口が重い」は?」
カレン「知らない。」
先生「「口車に乗る」は...」
カレン「知らないです。」
先生「「口火を切る」は...」
カレン「絶対知らない。」
先生「「大きな口をきく」は...」
カレン「ホント?って感じ。」
先生「「大きな口をきく」って言わない?」
カレン「親(が入る)かと思ってました。」
先生「親から先に生まれるからね~。」

「絶対知らない。」がいい。それなのに、番組終盤ではこんな発言も。

カレン「今まで何を使ったのか、もちろん覚えてないけど...「何食わぬ顔」はよく使ってました。」
先生「好きなんだ!」
カレン「好きでした!カッコいいから!"一個の意味をもつ"って言いますけど、(一つの言葉で)いっぱいわかるから。想像をばらまかせられる。」
オウム「想像を膨らませるんじゃなく、ばらまかせる?」
カレン「『怒ってる顔』って言ったら怒ってる顔だけど、『何食わぬ顔』って言ったら、笑ってる顔かもしれないし真顔かもしれない。」
先生「あいまいな感じね。それを表現できるのが慣用句の魅力です。何とも言えないものを慣用句は表現できるんです。」
カレン「ステキ!」

想像をばらまかせられるから、カッコいい!
カレンさん、充分にあなたがカッコいい!

番組「ベーシック国語」への心構えについて、インタビューではこんなことを。

WEBザテレビジョン
滝沢カレン「脳を通さないで話そうと思っている」高校講座で学習中!
2017/05/24 07:00


――番組で発言するときに気を付けていることなどはありますか?

脳を通さないで話そうと思っています。脳を1回通して考え過ぎちゃって、結局全然違うことを言ってしまったら、その時間がすごくもったいないと思うんですよ!

こんな心構えで出演しているタレントって、ほかに誰かいます?

「脳を通さないで話そうと思っている」って、電脳空間へジャック・インしているのか? アンドロイド筐体だったとか?

 ◆ ◆

この番組が好きでした。(放送期間は終わってしまったので)もう、見られないものとあきらめていたところ、偶然放送しているのを見つけました。

おだやかな語り口の金田一秀穂先生と自由奔放滝沢カレンさんとのちぐはぐなやりとりがたまらない魅力です。

一時期、他局の深夜番組で神田伯山との掛け合いがありましたが、金田一先生とカレンさんとのやりとりには、かないません。


――最後に、番組の見どころを教えてください。

私も国語の授業だと思って収録していないし、ただ面白い場所に呼ばれてるからそこに行っているだけなんです。
(途中略)
国語の勉強とは思わずに、お笑い番組だと思ってもらってもいいし、そんな感じで、何も固く決めずに見てもらいたいです。

はい! こちらもバラエティー番組だと思って楽しみにしてます。

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標準世界史地図(2024―2025年版) 
亀井高孝、三上次男、堀米庸三 編
吉川弘文館
1955年(昭和30)04月01日 第1版第1刷発行
2024年(令和06)04月01日 増補第51版第1刷発行
66+18頁
935円(税込)

ショッピングモール内の書店で数年前に見つけ、驚きました。半世紀も前、世界史の授業で資料として使っていたものです。古い記憶の彼方から、霧にかすんでこの表紙が思い出されました。ページを開くと、図版に見覚えがあります。

書店に寄るたび、ときどき気になって開いていました。ところが、しばらく前から見当たらなくなりました。売れたのでしょう。そうなると、ますます気になるもの。アマゾンで注文しました。

カラー図版の地図の最後は「64 世界の動向 中央アメリカと西インド諸島 中印国境」のタイトルです。地図内には「世界の動向(1990)」とあります。

「付1」と「付2」として、白黒版が2ページ追加されています。

「付1」は「ドイツの統一と東欧諸国の激動」として「ドイツの統一(1990)と東欧諸国の激動(1991~93)」「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ」「ユーゴスラビアの分裂」の3枚の地図。

「付2」は「ソヴィエト連邦の崩壊と独立国家共同体の成立 イスラエル ソマリア」として「ソヴィエト連邦の崩壊と独立国家共同体の成立(1991.12)」「イスラエル」「ザカフカス」「中央アジア」「ソマリア(アフリカの角)」の4枚の地図。ちなみに「中央アジア」にはカザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスについて。

ごちゃごちゃと書きましたが、つまり何が言いたいかというと、半世紀前に使ったものと、1~63 までは同じじゃないかということです。違いは、64と付1、付2の3ページだけ。

考えてみれば、数千年の世界史のなかで、最後の50年間なんて、ほんの短い時間です。それを3ページも割いているのだと理解すれば、それはもう大盤振る舞いでしょう。


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学校に、家庭に、職場に必備の歴史地図(by 出版社サイト)

って、いくらなんでも。