| 繪本辰巳巷談 泉鏡花 春陽堂書店 2024年12月05日 初版第1刷発行 270頁 |
泉鏡花の生誕150年を記念し、春陽堂書店がクラウドファンディングによって復刻出版しました。出版社サイトに説明があります。リンク、こちら
現代の小説に読み慣れている身には、世話物のストーリー展開は逆に斬新。黒岩涙香の本案ものを子供のころ読んだときの気分を思い出しました。
雑誌『本の雑誌』2026年1月 雪だるま餅つき号 No.511 で北村薫さんが紹介しています。そこでは造本についてほめていましたので、こちらもつい期待していただけに、ちょっとがっかり。せっかくの挿絵が印刷されているのを見て、もうちょっと紙質をなんとかできなかったものかと。いかにも写真のようで印刷がテカテカしているのです。近代文学館 : 名著複刻全集の『日本橋』を思い浮かべると、その差が大きくて。
巻末のお二人による解説がどちらも秀逸です。たとえば、東雅夫さんのものから。
P.253
訳ありげな鼎が人力車に乗って、夜の深川の長屋をあてどなく訪ね歩く冒頭シーンの精細ある描写には、若き日の鏡花が同地に対して覚えた感興(これぞ江戸の粋!)があらわであり、名作「牡丹の客」などにも見られる荷風散人の趣深い水都・深川の描写に、一脈通ずるところがあって面白い。
なんともいえない東雅夫さんの指摘。個人的に同じ思いにかられたところを本文から抜粋してみます。
P.25
少年(しょうねん)は此聲(このこえ)に突出(つきだ)されて、恰(あたか)も膠(にかは)の放(はな)たれたやうに、戸口(とぐち)から身(み)を退〈旧字体〉(の)いて一歩(ひとあし)退〈旧字体〉(さが)つたが、立停(たちど)まつて、キツと一眼(ひとめ)見(み)ると、顔色(かほいろ)をかへて足早(あしはや)にシカ〈くの字点〉と引返(ひきかへ)した。
『歸(かへ)るから、早(はや)う、』とせき込〈旧字体〉(こ)んだ風(ふう)で聲(こゑ)を懸(か)けて、見返(みかへ)りもしないでまたゝく間(ま)に車の前〈旧字体〉(まへ)へ廻(まは)つて路次(ろじ)を出(で)たが、一文字(いりもんじ)に意(きふ)なんだから車夫(しやふ)はアワを食(く)つて、呑(の)みさして居(ゐ)た煙〈旧字体〉管(きせる)を逆〈旧字体〉(ぎやく)に取(と)つて梶〈木偏+口+耳〉棒(かぢばう)へ吸殻(すいがら)を叩(たゝ)き落(おと)とした、飛上(とびあが)るやうに身(み)を起〈旧字体〉(お)こしてソヽクサ煙〈旧字体〉管(きせる)筒(づゝ)に突〈旧字体〉込〈旧字体〉(つゝこ)みながら、呆(あき)れた顔〈旧字体〉(かほ)をしてくる〈くの字点〉と眼(め)を睜(みは)ると、少年(せうねん)はハヤ藏(くら)について曲(まが)がつてしまつたので、蹴込〈旧字体〉(けこみ)へ煙〈旧字体〉草入(たばこいれ)を投(はう)り込〈旧字体〉(こ)んで引張(ひつぱり)つけられたやうに空車(からくるま)のつて梶〈木偏+口+耳〉棒(かぢばう)をあげた、ゴロ〈くの字点〉〈くの字点〉と砂地(すなぢ)へ摺(すり)つけて轆(きし)る音(おと)が聞(き)こえたが、やがてまたひツそりして、稍(やゝ)照(て)りまさつた月(つき)の色(いろ)の薄(うす)ら蒼(あを)い路次(ろじ)の上(うへ)に、吸殻(すいがら)が一(ひと)ツぽツつり赤(あか)くなつて燃(も)え殘(のこ)つたのが、ほろ〈くの字点〉と動(うご)いて暫(しば)らくすると地(ち)へ吸込〈旧字体〉(すひこ)まれたやうにぢいツと消〈旧字体〉(き)える。同時(どうじ)にさら〈くの字点〉と磯(いそ)くさい風(かっぜ)が吹(ふ)いて來(き)たが、動(うご)くものといつたら塵(ちり)一(ひと)ツ葉(ぱ)もない。靜(しず)まり返〈旧字体〉(かへ)つた爾時(そのとき)。
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P.250
血まみれの、恍惚。
──『繪本辰巳巷談』をめぐって
東雅夫
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P.258
雪岱と『繪本辰巳巷談』
富永真樹
六人の画家と「辰巳巷談」
小説「辰巳巷談」初出は(途中略)、一八九八年二月の『新小説』である。この号には「辰巳巷談」に材を取った中村不折、富岡永洗、鈴木華邨、下山爲山、水野年方、揚州周延による巻頭挿絵が七枚寄せられた。(途中略)これら写真版・単色印刷の挿絵に小村雪岱が着色したものが『繪本辰巳巷談』に収められた挿絵である。
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