罪な体裁『どこかにいってしまったものたち』

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どこかにいってしまったものたち
クラフト・エヴィング商會 著
坂本真典 写真
筑摩書房
1997年06月25日 初版第1刷發行
2002年11月30日 初版第9刷發行
158頁

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■本全体にシミが目立つため可としました。■中古品と考えても、気になるヤケ・汚れ・キズなどがございますが、読む上で支障のない程度と判断しております。状態に関するご理解をお願いいたします。

これは、Amazonの中古品(古本)で見つけた、ある販売元の説明書き(コンディション)です。気になったのが「■中古品と考えても、気になるヤケ・汚れ・キズなどがございますが、」のところ。いくら古本とはいえ、ここまでの表現はなかなか目にしません。販売元は某大手古書リサイクルショップでした。

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そこで、考えたのが次のことでした。

失礼ながら、もしかして、先ほどのコンディションを書いた人は、じっくり検品したのでしょうか。なぜなら、この本『どこかにいってしまったものたち』は、制作意図の特異なところが魅力の本だったからです。

著者の「クラフト・エヴィング商會」を検索してみます。

クラフト・エヴィング商會は、日本のグラフィック・デザイナー、著作家。吉田篤弘と吉田浩美の二人からなるユニットである。実在しない書物や雑貨などを手作りで作成し、その写真に短い物語風の文章を添える、という形式の書物をいくつか出版しているほか、ブックデザイナーとして文芸書など多くの書籍のデザインを手がけている。 ウィキペディア

どうでしょうか。「実在しない書物や雑貨などを手作りで作成し、その写真に短い物語風の文章を添える、という形式の書物」こそが、まさしく本書なのです。ページをめくって現れるのは、古ぼけたチラシだったり埃まみれの空箱などです。それらはプラモデルでいうところの「汚し」の技法を駆使した「まがい物」なのです。

ちょっと見ただけでは、見分けがつきません。ましてや、担当者が流れ作業でパラパラとページを繰ったくらいでは、(痛んだ古書と)間違えてもしかたがないでしょう。本書のねらいは、そこにあるのですから。もちろん、ひとをだますためではありません。そんなあわい世界に遊ぶためです。

それは、「クラフト・エヴィング商會」の名前の由来である稲垣足穂の世界と通じます。いかにも「一千一秒物語」に出てきそう。

もちろん、これらは全部が思い違いだったということだってあり得ないわけじゃありません。ですが、一読者がひとときこんな妄想にふけることができたのも、「クラフト・エヴィング商會」の遊び心のおかげです。

最後にひとつ付け加えるなら、もちろん「クラフト・エヴィング商會」に罪はありません。表題には「罪な体裁」などとつけてしまいましたが。