「おじさんはぁ、元気ですかあ?」

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絵に描いたような小春日和。12月だというのに南風の吹くなか、自転車をこぐ。浅草氏(映像研には手を出すな!)と同じ型をした帽子のひさしが、折からの風にあおられてめくれそうになる。背中のリュックが肩に食い込んでいるのは、さっき隣町の図書館で借りるのに欲張りすぎた本のせいだ。

車止めポールが邪魔をして、歩道の通れるはばが狭まっている場所が迫っていた。手前のところで、縁石に右足の先を突いて待つことにする。向こうから下校する小学生の群れがやってくるのだ。大人の対応として、こちらが譲ることにした。

先頭のグループのなか、大柄の男の子が不意に発したのが、それだった。

「おじさんはぁ、元気ですかあ?」

見ず知らずの子どもから話しかけられたのは初めてのことだったので驚いた。物騒なご時世だ。防犯グッズの児童用があることを思い浮かべる。子どもたちだって、あれこれ注意されているだろうに。それが、先ほどの言葉をかけられたので、ひどく面食らってしまった。

頭を少し傾げながら、笑顔でつづける。

「ぼくはぁ、5時間目に、しっかり寝てしまったんでぇ、のどがすっごく、痛いんですよぉ!」

彼のからだを両脇と後ろから、仲間たちが押さえつけている。「恥ずかしいからやめろよ」とでも言っていたようだ。その後から、女子が「こんにちは」と笑顔で通っていく。

小学生の4、5年生くらいだったろうか。ちびまるこのような黄色い通学帽をみんな被っていたのだが、話しかけてきた男の子には、少しばかり帽子が小さくなっていたようだった。

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そのあとも、しばらくのあいだ声が聞こえた気がした。「おじさんはぁ、元気ですかあ?」

「うん、元気だよ」そう応えてやればよかった。ところで、5時間目の授業は何だったのかな。