名探偵ポワロ(12) 「ベールをかけた女」 NHKBSプレミアム 2022.08.24(水)21:00 |
ドラマのなかに模型のヨットが出てきます。
ドラマの冒頭の場面で。事件が減って平和になったのはいいけれど、ポワロが手持ち無沙汰でつまらないと愚痴っています。市民の平和な暮らしを象徴するように、公園の池では子どもたちが模型のヨットを浮かべて楽しんでいる様子が映し出されます。
池は大人の膝丈くらいの深さなので、とりたてて操縦する必要はなさそう。遠くに行ってしまったのは、どうするのか、若干気になります。
ドラマの最後の場面。冒頭のヨットと呼応しています。
無事に事件を解決したポワロとヘイスティングスが、例の公園を歩いてきます。ヘイスティングスは立派な大型ヨットの模型を手にしています。大人の背丈よりも大きいのが見てとれます。よく見ると木製で精巧なつくりで、かなり高価なようです。そこへ現れたジャップ警部も見守るなか、立派な模型のヨットが池を滑り出します。
繰り返し観てきたドラマ「名探偵ポアロ」です。字幕版も含めると、この回だけでも数回は観ているはず。で、この最後の場面のなか、いつも不思議に思っていることがありました。あんなに大きな模型のヨットをどうやって回収するのだろうか?
今回、その答えを見つけました。実は大型ヨットはラジコンだったのです。最後の場面で動き出した船尾を見ていると、甲板上の部品が動いているではありませんか。ラジコンで用いる「サーボ」の動きです。ギイっと動くと船体がくるっと舵を切る様子が見てとれます。最後にいちばん大きくサーボがギイっと動き、船体が舵を切って回転しようとした瞬間、画面がエンディングロールに切り替わってしまいます。
この時代にラジオコントロールの模型ヨットがあったとしたら、おそらく高度な機密を備えた軍事用でしょう。コントローラーは巨大なキャビネット大だったりして。まあ、所詮はミステリーのドラマなんですから、絵空事といってしまえばそれまでですが。そういった気分で見返してみると、演出なんですね。
公園のベンチのところで、ヘイスティングスが大型模型のヨットを置くとき、別のおかしなことに気がついてしまいました。
模型とはいえ、ヨットには船体の下に大きく突き出た部分があります。風を帆で受けて進むために傾いた船体のバランスをとるためです。ですから、こうした模型のヨットでも、飾るときには船体を置くための台(治具)が必要になります。なにもないところには、模型とはいえヨットを置くことはできません。倒れてしまいます。
ところが......。ヘイスティングスはベンチの前で、おもむろにヨットを置いてしまうのです。船体を支えるような治具はまったく見当たりません。絶妙なカメラワークで、じょうずに船体の下は写らないのです。おそらく、船体を支えるための台(治具)が、あらかじめ用意されてあったはずです。
そんな無粋な台(治具)なんぞ、演出上では必要なかったのでしょう。
冒頭に登場した数々のヨットの模型も、ラジコンでした。そうでなければ、あんなに魅力的なターンは、できっこありません。2本マストのスクーナー船が......。
◆ ◆
このドラマの魅力は、美しい時代背景の描かれかたにあります。建物や家具などのデザイン、ファッションから小物類にいたるまで、じつに緻密で丁寧に作り込まれています。さらに絵画のようなカメラワーク、演出が見事です。この回でも、冒頭でのファサードの場面もたまりません。そして次が公園の場面です。池に突き出た桟橋で、腹ばいになった少年。ズボンをたくし上げて池に入った父と子どもたち。例のスクーナー船を肩に担いだ子どもが左から右へ画面を横切ったと思ったら、ちょっと年長の上着の少年が自転車を押して右から左へ通り過ぎます。最初は気がつきませんでしたが、自転車を押す少年は左利きなんです。画面の右から左へ向かうとき、左利きだと自転車の向こう側に立つことになります。そうすると手前に自転車が写るので、視聴者の印象に残りやすい。もしかすると、この通行人の男子は演出のために左利きとして自転車を押していたのかもしれません。これらがすべてあっという間の出来事です。無粋なことは排除しなくちゃ成り立ちませんね。
若竹七海さんが新婚旅行だったかで、ホワイトヘイブン・マンションを見に行ったときに......。つづきはまた。
コメント