[NO.1497] わたしのベスト3 作家が選ぶ名著名作

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わたしのベスト3 作家が選ぶ名著名作
毎日新聞出版 編
和田誠 画
毎日新聞出版
2020年02月15日 印刷
2020年02月29日 発行
293頁

手元に置いておいて損はない。次に読む本がなくなったときに役に立ちそう。ページ見開きで完結しているので、ぱっと開いてすぐに読み切れてしまえる。全編と表紙が和田誠さんの似顔絵イラスト。

巻末から抜粋
初出 「毎日新聞」2001年6月~2016年6月。紹介した書籍の情報は2020年1月現在のものです。(編集部)

なるほど、このように「書籍の情報は2020年1月現在のものです」とあるのは親切だ。いちいち調べ直す作業は個人だと面倒だし。さすが大手新聞社の力。

それはさておき、本書は「毎日新聞」に掲載された、好きな作家によるベスト3を紹介している。どの作家がいったいどんな作家を選んでいるのか。その作家のベスト3は何か。爆笑問題の太田光が太宰治を取り上げているような、いかにもありそうな組み合わせから、反対に意表を突く組み合わせまで。興味が尽きない。

章立てによっては作家が作家を選ぶのではなく「Ⅳ テーマで読む」といったものもある。それはそれでまた面白し。こうなると、どうしても目次が重要になってくる。調べると出版社サイトに出ていた。リンク、こちら。

これを見ているだけでも、興味深い。サイトの目次は改行がなくてベタな羅列なので、見にくい。書籍の目次は選者と選ばれた作家の組み合わせごとに改行されているので見やすい。

恩田陸の選んだ相手がロアルド・ダールだったり、よしもとばななが萩尾望都、小林信彦はパトリシア・ハイスミス。どのペアも納得。

さらにいえば、章立ての「Ⅱ わたしを作った本」で北杜夫がトーマス・マンを選び、「Ⅲ 作家VS作家」では沢野ひとしが椎名誠を選んでいる。

◆ ◆

【読んでみたくなった本】

P58
北村薫・選/フジモトマサル
①今日はなぞなぞの日(平凡社)②終電車ならとっくに行ってしまった(新潮社)③夢みごこち(平凡社)
(2012年1月8日)

フジモトマサルさんは漫画家、イラストレーターで、2015年に46歳で亡くなっていた。北村先生の紹介する文章が秀逸。フジモトマサルさんの作品について、魅力をうまく書いている。

P61
米澤穂信・選/泡坂妻夫
①亜愛一郎の狼狽(創元推理文庫)②妖女のねむり(創元推理文庫)③家紋の話 上絵師が語る紋章の美(志ん朝選書)
(2012年2月12日)

特に③が興味深い。泡坂妻夫さんの継いだ家業が家紋を入れる職人だった。

P64
池澤夏樹・選/ジョン・ル・カレ
①スマイリーと仲間たち(村上博基訳/ハヤカワ文庫)②リトル・ドラマー・ガール 上・下(村上博基訳/ハヤカワ文庫)③ロシア・ハウス 上・下(村上博基訳/ハヤカワ文庫)
(2012年12月16日)

丸谷才一さんを使って紹介文を書いている。

冒頭から引用
P64
丸谷才一さんはミステリが好きだった。

文末から引用
P65
ですよね丸谷さん。

その間にはさまれるように3冊が紹介されている。

P84
保坂和志・選/小島信夫
①抱擁家族(講談社文芸文庫)②うるわしき日々(講談社現代新書)③残光(新潮社)
(2006年11月19日)

うまい。冒頭からつかまれてしまった。

P84
まず最初に確認しておきたいのだが、『別れる理由』は小島信夫の代表作ではない。

へんてこな小説として名高かった『別れる理由』をいきなり出してくる。しかも、つづけていうには、『別れる理由』はその後のさらに途方もない「作家へと変貌していくための修行か筋トレのような役割を果たした」作品であったという。なんだ、そりゃ。

P174
津野海太郎・選/植草甚一
①ワンダー植草・甚一ランド(晶文社)②新装版 植草甚一自伝(植草甚一スクラップ・ブック40/晶文社)③植草甚一の読書誌(シリーズ植草甚一倶楽部/晶文社)
(2008年12月7日)

津野海太郎さんとJJおじさんの組み合わせ、ぴたりとはまっている。内容もなるほどと納得。
どうして植草甚一さんが書くものは「話があっち飛び、こっち飛び」する「散歩文体」だったのか。津野海太郎さんのいうには、植草さんは「告白や懐旧がいやだった」「震災後の東京での左翼少年、モダニスト青年としての過去を自己愛ぬきで語るには、こうさいた迷路じみた語り口が必要だったのであろう」とのこと。ちなみに、「散歩文体」は長い時間をかけて推敲した結果だったとも。身近な編集者ならではの指摘だ。

「専門のない植草さん」が、唯一「本業にしたい、と考えていたことが」「最新の欧米文壇ジャーナリスト」だったのだという。それもふつうのではなく、「ただし、ちょっと高級な」という条件がつく。さすが津野海太郎さん。

JJおじさんの「散歩文体」とからめて気になったのが、平岡正明さんは「バップ・ジャズの即興演奏のやり方」で発想を展開していったのだという青山南さんの指摘だった。これってジャズつながりだよ。

P178
青山南・選/平岡正明
①チャーリー・パーカーの芸術(毎日新聞社)②大落語 上・下(法政大学出版局)③昭和ジャズ喫茶伝説(平凡社)
(2009年10月25日)

青山南さんは、つかみからして上手だ。「話題を変えるときの接続語」である「そういえば」が平岡正明さんの発想のしかた、思考の展開のしかただったのだという。平岡さんは「なにかが頭にうかんでくると、ひょいと話題を変えて話をつなげていった」。「いちおう、主たるテーマはあるが、語りを始めたら、あとは、頭に浮かんでくるものにしたがって話を展開し、ちょっと詰まったら、またテーマにもどるという方法。」

青山さんのたとえがうまい。平岡正明さんの話をジャズの即興演奏に重ねている。「言葉でバップ・ジャズをやった」って、かっこいい。

P228
都築響一・選/放浪
①荒野へ(ジョン・クラカワー著、佐宗鈴夫訳/集英社文庫)②田中小実昌エッセイ・コレクション2 旅(田中小実昌著、大庭萱朗編/ちくま文庫)③土佐源氏(宮本常一著/『忘れられた日本人』所収/岩波文庫)
(2013年1月27日)

P232
松家仁之・選/新緑の軽井沢で読む
①ふたりの山小屋(岸田衿子、岸田今日子著/文春文庫)②佐野洋子著/ちくま文庫)③軽井沢うまいもの暮らし(玉村豊男著/中公文庫)
(2013年5月12日)

①高校時代の日記やスナップ写真が見たい。巻末座談会には谷川俊太郎さんが参加しているという。すごいな。元旦那さん。②谷川俊太郎さんの3人目の奥様である佐野洋子さんによる軽井沢暮らしについて

P242
山田太一・選/人生
①オリーヴ・キタリッジの生活(エリザベス・ストラウト著、小川高義訳/ハヤカワepi文庫)③老残/死に近く 川崎長太郎老境小説集(川崎長太郎著/講談社文芸文庫)③生きる。死ぬ。(玄侑宗久、土橋重隆著/ディスカヴァリー・トゥエンティワン)

①Amazon Prime Video 『オリーヴ・キタリッジ (字幕版)』として4編が見られる。1話目を見て中断していた。偶然、本書で見つけてびっくりした。
(2014年1月26日)

P250
菊地成孔・選/ジャズ
①だけど、だれがディジーのトランペットをひん曲げたんだ?(ブリュノ・コストゥマル著/うから)②終わりなき闇(ジェイムズ・ギャビン著/河出書房新社)③ジャズ・ミュージシャンの3つの願い(パノニカ・ドゥ・コーニグズウォーター著/スペースシャワーネットワーク)
(2014年6月8日)

多彩な菊地成孔さん、この紹介文もうまい。全文キャプチャをとろう。

P256
原田マハ・選/アートと本
③美術の物語 ポケット版(E・H・ゴンブリッチ著、長谷川宏ほか訳/ファイドン)
(2014年9月21日)

③「アート入門書の推薦」を壊れると、必ず本書を挙げるという。

P268
みうらじゅん・選/スキャンダル
①パティ・ボイド自伝 ワンダフル・トゥデイ(パティ・ボイド、ペニー・ジュノー著、前むつみ訳/シンコーミュージック)②グリニッジヴィレッジの青春(スージー・ロトロ著、菅野ヘッケル訳/河出書房新社)③安部公房とわたし(山口果林著/講談社)
(2016年2月28日)

こうした短文だとますます上手い、みうやじゅんさん。これもスキャンしておきたい。和田誠さんの似顔絵もいい。③はもとから知っていた。①と②が新鮮だった。