[NO.1492] いつだって読むのは目の前の一冊なのだ

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いつだって読むのは目の前の一冊なのだ
池澤夏樹
作品社
2019年12月20日 初版第1刷印刷
2019年12月25日 初版第1刷発行
697頁
再読

何か面白い本はないか? と思ったら、これを読めばいい。通読はしなくとも、パッとページを開いて、つまらなそうだったなら、また次のページをひらいてみればいい。

池澤夏樹さんが週刊文春「私の読書日記」に掲載した16年間の書評をまとめてある。分厚い。題名が目をひく。前書きに「ふっとタイトルが空から降ってきた......」とある。

この著者の書評集はずっと好きで集めてきた。初めは『読書癖』シリーズだった。『室内旅行』『風がページを......』もよかった。『ブッキシュな世界像』は何度も読み返したし、このタイトルは今でもときどき思い出す。『嵐の寄るの読書』もあった。

とても通読はできない。目次を見てページを開くか、ぱらぱらめくって偶然目にとまったところを読む。

P069
2005年
理科年表、四色問題、コンクリート
『理科年表』にひかれて開く。次の四色問題も含め、既読のような。神田スズラン通りの東京堂書店で『理科年表』を買う寸前に、踏みとどまった記憶がある。今回読んでみて、昔のときにはどうも別の文章を読んだような記憶も。同じ内容で別バージョンの文章もあったし。記憶は当てにならないが。
P078
カナダの作家、イタリアの作家、狂牛病
カナダの作家アリステア・マクラウドの長篇『彼方なる歌に耳を澄ませよ』(中野恵津子訳、新潮社)について。

たまたま見つけたページ。それにしてもうまい。読んでいて物語のような展開に引き込まれる。読んでいる最中も心地よい。文体がいい(好きな)のだろうか。カナダへ移民する前に先祖が住んでいたスコットランドの村を訪れた双子の妹は、「その顔立ちから村人にすぐに同族と認められて家に招じ入れられ」たという。紹介されているこの本を読みたくなった。

P657 (2019年)
『波紋と螺旋とフィボナッチ』(近藤滋、角川ソフィア文庫)

科学関連本の紹介。典型的な池澤さんの書評っぽい。小説家がこの手の本を紹介することは珍しい。

アラン・チューリングの出し方(提示の仕方)がうまい。最後の一行

ここまでが、波紋。残る螺旋とフィボナッチについても一読三嘆と言っておこう。

こんな月並みは初めて見たので驚いた。しかし、インパクトは強かった。

次の書評の冒頭にまで『波紋と螺旋とフィボナッチ』の内容紹介が引きずるように出てくる。清水義範さん命名(発見)「ジンクピリチオン効果」について。

ここまで紹介されては、読まないという選択肢はなかった。