[NO.1478] 閑な読書人

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閑な読書人
荻原魚雷
晶文社
2015年11月30日 初版
254頁

書名のとおり、「読書」にまつわる話をまとめたもの。

初出は文芸誌『新潮』から中学受験の専門誌『進学レーダー』まで、いろいろ。さらにブログ「文壇高円寺」に2010年から2015年くらいまで発表したものを加えてある。「杉浦日向子の隠居術」のみ書き下ろし。で、その「杉浦日向子の隠居術」がいちばんおもしろかった。久々にOCRにかけて、抜粋した。SmartOCR Lite Edition をWin7で利用している。Win10でも動くのだろうか。

他、印象に残ったところをいくつか。

巻頭、「隠居願望」で始まる。二つ目が「働かない方法」とつづく。どこまでもニート指向。その二つ目で紹介しているのが『働かない人達』(笠倉出版)。知らない本。

三つ目が「ぼくはお金を使わずに生きることにした」というタイトル。同名の本を紹介している。『ぼくはお金を使わずに生きることにした』(マーク・ボイル著、高田奈緒子訳、紀伊國屋書店)。これって、TVのドキュメンタリー番組で放送していたような。つい最近、録画予約した中にあった記憶も。

NHKのEテレ「ドキュランドへようこそ「365日のシンプルライフ」」でした。11月15日(金)放送予定。再放送ではないかな。前にも見たような。ネット検索をすると、映画にあった。Amazonでレンタル400円。こちらは1時間23分なので、NHKの番組とは違う。2014年公開。とりあえず、放送されたら見てみよう。

荻原さんが紹介している本では、イギリス在住の青年の話。NHKの番組と映画のほうはフォンランド・ヘルシンキ在住の青年の話だそうな。

ドキュメンタリー番組で、「レンタルなんもしない人」とかいうのを以前にやっていた。話題になったらしく、別の番組でもしばらく時間をおいて取り上げていた。そういうのが今の流れにあるのかな。こちらの録画もあったはずなのだが......見つからない。

P65「おせっかい主義」
文中では吉田健一著『甘酸っぱい味』(ちくま学芸文庫)を紹介しながら、「日本式おせっかい主義」とある。めずらしく主義について書いている。

P67
「日本式のおせっかい主義」は姿形を変え、今も残っている。
「日本式のおせっかい主義」は、正義(大義名分)をかざして、他人を叩き、溜飲を下げる風潮といってもいいだろう。
 正義を全否定するつもりはない。
 ただし、正義はいともたやすく排他主義や画一主義に陥る危険性を内包していることだけは忘れないようにしたい。
「日本式のおせっかい主義」には、理屈が通用しない。だから面倒くさい。まともな議論にはならないから、つい沈黙してしまう。
 ほんとうに厄介だ。

P101「地球の上で」
暮尾淳著『詩集 地球の上で』(青娥書房)を紹介している。荻原魚雷さんは詩集を取り上げることが多い。この詩集の中から「マレンコフ」という詩を引用する。
マレンコフというのは、かつて新宿ゴールデン街にいた流しのギター弾きのこと。面白い。

P252「あとがき」
本書の書名について書いている。この『閑な読書人』というのは、もともとデビュー作につけるつもりだったのだけれども、そのときには却下されてしまい、やっと今回使うことができたのだという。尾崎一雄著『閑な老人』をもじった題なのだそうだ。そうした説明のあと、次の名文が続く。

P253
閑がなくても本は読めるというが、閑がなければ、本は探せない。

このあとに、「本を読んでいる時間よりも本屋で背表紙を眺めている時間のほうが長いくらいだ。/仮にも"閑な読書人"を名のる以上、なるべく"忙しい読書人"が手にとらない本を読みたい」と続く。

◆  ◆

「杉浦日向子の隠居術」(P105~)

『杉浦日向子の江戸塾ーー笑いと遊びの巻』(PHP文庫)田中優子との対談
杉浦日向子いわく、隠居の三原則、『働かない』『食べない』『属さない』

『杉浦日向子と笑いの様式』(七つ森書館)
所収の「低成長時代を生きる」田中優子との対談
杉浦さんは隠居するために漫画家をやめた。そのかわり、衣食住のすべてを縮小したという。
ちょっと足りない、やや不便なくらいが、ちょうどいい。何かを選択するときには、「拡大」よりも「縮小」を目指す。引っ越しをするなら狭い部屋。家具や家電製品を買い替えるなら小さなものにする。
ミニマリストという言葉があった。できるだけものをもたずにシンプルに生きるとか。部屋に物を置かないなどどいうのもあった。ステイホームの今も続いているのだろうか。杉浦さんは、そんな流行とは無縁だ。

『呑々草子[のんのんそうし]』(講談社文庫)
所収「隠居志願」を紹介しながら魚雷さんの書く文章がいい。隠居になるとは手ぶらの人になること。手ぶらとは、持たない、抱えない、背負わないだが、ポケットには小銭がじゃらじゃら入っているし、煩悩も「鐘を割る程胸にある」。

だから、抹香臭い「無一物」や「清貧」とは、まるで違う。世俗の空気を離れず「濁貧」に遊ぶのが隠居の余生だ。『清貧の思想』なる本があるが、辛そう。「濁貧」なら気が楽だ。

「清貧」に対する「濁貧」って、すごい。

高橋克彦、杉浦日向子著『その日ぐらしーー江戸っ子人生のすすめ』(PHP文庫)
江戸時代の町民は実働四時間くらいだった。月に七日働けば、なんとかなったという話もある。

杉浦日向子著『粋に暮らす言葉』(イースト・プレス)
死の二年前に語ったという言葉が重い。

頑張って暮らしていると、死の間際まで頑張らなきゃいけないので、「まだ死ねない。なぜいま死ななくちゃいけないんだ」って死に抵抗するわけですけど、らくーに生きてると、らくーに死ねるわけですよね。そうやってにこにこ死ぬには、にこにこ生きていないといけないですね。

享年46歳。