[NO.997] 双六で東海道

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双六で東海道
丸谷才一
文藝春秋
2006年11月15日 第1刷発行

 ずっと継続している丸谷氏のエッセイ。わかっているだけに、安心して読めます。前回NO.996で、おやっと思ったように、ときどき出てくる小沢昭一的こころと同じ文体に、思わず笑ってしまいます。

 このかたの特徴ともいえる、英文学の蘊蓄が目新しいところか。

 っと書いていて、足下をすくわれるところでした。
p220「蝶が夢みる」。三浦雅士氏によるフィリップ・K・ディックの代表作として3作
『ヴァリス』創元SF文庫・大瀧啓裕訳
『ユービック』ハヤカワSF・浅倉久志訳
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』ハヤカワSF・浅倉久志訳
を挙げたあと、続けて紹介しています。つまり、三浦氏曰く、ディックの小説の主題は胡蝶の夢――自分が蝶になつた夢を見た者が、夢から覚めて、自分が夢で蝶になつたか、蝶がいま夢のなかで人間になつてゐるのかわからなくて困る、といふものだ、と言つてゐる。さらに、「これが、フィリップ・K・ディックの永遠の主題。いや、人間の永遠の主題というべきかもしれない。(中略)やっかいな疑問だ。完全には否定できないからである」と怖いことを言ふ。
 ここから、丸谷氏は『高い城の男』(ハヤカワSF・川口正吉訳)の紹介へと話を進めます。もちろん、ペダンチックなこと、この上ない文章で。
 キングズリ・エイミスによる長編小説の中にこの『高い城の男』が出てくるとして、さらに飛躍していきます。いやあ、丸谷才一エッセイの面白いところが、これでもか、と披露されているところ。とても、一筋縄ではいかず。
 この老人、相変わらずですねえ。

      ※   ※

 そのほか、本の紹介で読みたくなったもの。
p35
「必読の書」として『明治大正見聞史』(生方敏郎)
p39
「ほら、ほら、あの......」と第し、物忘れに、特に人名が出てこなくなることに言及しながら紹介
『月刊 言語』(2005年3月号)名前の特集
 『なぜ名前を思い出すのは難しいか』(越智啓太)
『なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか』(ダニエル・L・シャクター/日本経済新聞社)