時間のかかる読書/横光利一『機械』を巡る素晴らしきぐずぐず 宮沢章夫 河出書房新社 2009年11月20日 初版印刷 2009年11月30日 初版発行 |
実に面白い着眼。奇書。こんな面白いことを宮沢さんがやっていたなんて、ちっとも知らなんだ。その昔、『別れる理由』(小島信夫著、講談社刊)という奇書がありましたが、なんだか似ているというのか、なんといったらいいのか。
雑誌『一冊の本』(朝日新聞出版)に1997年4月~2008年6月まで掲載したのが初出。その期間が、実に11年と2ヶ月。なかみはというと、あの横光利一『機械』を読んでのエッセイ。いやあ、驚きました。著者は文中で、冗談でやった、とおっしゃっていますが、なんのなんの、そんな韜晦めいたことをいう必要ありません。サブタイトルにあるとおり、「素晴らしきぐずぐず」です。どうして、こんなことを始めたのか、今となっては自分でも覚えていないとのこと。ぐずぐず、いいですねえ。
本書、構成もうまい。11年(と2ヶ月)分の文章の頭に、そのときの時事ネタを載せているのです。あー、そういえばそのなことがあったなあ、と想起させられるように。著者自身もその間に引っ越しをしたり、いろんなことがあったそうだけど、読者もたくさんのことを思い起こさせられる仕組み。なるほど。
なんだか、後期のコミさんこと田中小実昌氏の文章みたいな。ぐずぐず、いいぞ。
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