[NO.815] 稀書自慢 紙の極楽

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稀書自慢 紙の極楽
荒俣宏
中央公論社
1991年9月15日 初版印刷
1991年9月25日 初版発行

 20年近く前の出版。中公文庫からも出ていますが、大判で見た方がきれい。本書の存在自体が稀書。

 荒俣氏の本にまつわる自伝。これまでにも荒俣氏の幼少時代からのあれこれは目にしてきたけれど、本がらみということで興味深いエピソード満載。深夜に読み出すと止められなくなってしまい、翌日が睡眠不足。

 荒俣氏とは40歳ほど年齢の開きがありながら、中学3年生のときに手紙を書いたことがきっかけで弟子入りしたのだという平井呈一氏との関係には驚き。平井氏のことを「お師匠(つしょ)さん」と読んでいるのも面白し。
 これまでに平井氏には3度も破門されたことがあるという。この「お師匠(つしょ)さん」による数々の教えというがなんともはや。SF小説なんぞは内容が薄っぺらな紙芝居なので手を出すなだそうで、鏡明氏と一緒に『英雄コナン』シリーズ(ロバート・E・ ハワード)の翻訳をしたときには破門されたという。

 平井お師匠(つしょ)さんから紹介されたのが紀田順一郎氏。紀田氏の自宅で食事までやっかいになったこともあるとのこと。さらに奥様には見合いの心配までされたとも。こちらの呼び名は「恩師」。
 紀田氏に導かれたとして、江戸期の和本の話の中、赤松宗旦著『利根川図志』が登場します。
p215
 江戸本の猛威が一気に顕在化したのは、大屋書房での初体験から三年後だった。つまり愚生は、江戸本に「三年殺し」の大わざをかけられたことになる。この方面の恩師の導きにで、江戸のいちばんおもしろい地誌二冊、すなわち赤松宗旦の『利根川図志』と鈴木牧之の『北越雪譜』を知ってしまったのだから、これまた尋常でない。

 少年時代もユニークですが、雑誌「マンハント」と出会った頃のエピソードもなかなか。この雑誌は小林信彦氏のエッセイに度々出てきて気になっていたし。さすがに、ここまでは手が出せず。

 平凡社社屋の中で寝起きしながら『帝都物語』で得た1億円以上の印税をつぎ込み、厖大な高価洋書を購入するあの時代の手前で、本書は終えています。ずっと波瀾万丈だなあ。

 きれいなカラー図版も多数掲載。惜しむらくは巻末に索引が欲しかった。