[NO.741] うずまき猫のみつけかた/村上朝日堂ジャーナル

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うずまき猫のみつけかた/村上朝日堂ジャーナル
村上春樹
新潮社
1996年5月24日 発行
1996年7月25日 4刷

 アメリカ、ボストン時代の話。写真は奥様。

 一番興味をもったのが文体でした。いわゆる口語なのですが、独特。おもしろい。

p94
一度ある出版社の仕事用の山荘で、橋本治氏と一週間ほど一緒になったことがあるが、毎日一度夕食の席でしか顔を合わせなかった。橋本さんは夜中の九時頃からおもむろに仕事を始め、僕はだいたいそれくらいにおもむろに眠りにつくから、同じ時刻に夕食をとる以外は完璧なすれちがいだったのだ。二人で組んで、交代制でコンビニでも経営すれば便利かも知れない。

p118
生活の中に個人的な「小確幸」(小さいけれども、確かな幸福)を見出すためには、多かれ少なかれ自己規制みたいなものが必要とされる。たとえば我慢して激しく運動した後に飲むきりきりに冷えたビールみたいなもので、「うーん、そうだ、これだ」と一人で目を閉じて思わずつぶやいてしまうような感興、それがなんといっても「小確幸」の醍醐味である。そうしてそういった「小確幸」のない人生なんて、かすかすの砂漠のようなものにすぎないと僕は思うのだけれど。