最後の波の音 山本夏彦 文藝春秋 平成15年3月15日 第1刷発行 |
p154
少年のころ私は魯庵の「思ひ出す人々」を愛読して、これによって硯友社の人々、二葉亭四迷の一生、山田美妙、斎藤緑雨たちと知りあいになった。ことに同情あふれる筆で書いた二葉亭の生涯には心を動かし、さながら生きている人のように私は二葉亭の生涯に通じたのである。
本を読むということは死んだ人と話をすることである。幸か不幸か死んだ人は返事をしない。分からぬところは五年たって十年たってみて、さてはこういう意味であったかと思い当たって、また話ははずむのである。
p156
今人に知己が得られないなら故人にそれを求めるよりほかない。少年の私は故人の紹介で有名無名の故人と知りあった。私は私を半分死んだ人だと言ったら、久世光彦はまるごと死んだ人だと言った。魯庵は緑雨の生涯を、また原抱一庵(ほういつあん)の生涯までこれまた同情あふれる筆で書いた。
p166
この世は義理と人情から成る所である。
山本夏彦氏の格言。毎度毎度同じことを何度も書いているのに、よくもまあこれだけたくさんの本が出せたものだと思います。
コメント